プライベート市場が世界的に拡大する中で、分散投資ポートフォリオや資産配分戦略に占めるプライベート市場の割合も着実に高まっています。エバーグリーン型ファンドの普及や、公開市場とプライベート市場の資産を組み合わせたハイブリッド型商品の登場、規制環境の変化、商品開発の進展などを背景に、プライベート市場は幅広い投資家に開かれつつあります。一方、プライベート市場は依然として不透明であるため、透明性向上を求める声がますます高まっています。
1. 富裕層投資家の間で、プライベート市場への関心はどの程度高まっているのでしょうか?
指数プロバイダーである当社の立場から見ると、プライベート市場指数に対する需要は着実かつ継続的に拡大しています。その背景には、企業が未上場のまま事業を行う期間が長期化しているという構造的な要因があります。
これに対して、上場企業の数は減少傾向にあるため、経済全体に占める未上場企業の割合が高まっています。プライベート・クレジット市場を取り巻く環境には厳しさも見られるものの、従来の資金調達手段に代わる選択肢として、市場規模の拡大が続いています。その結果、経済活動におけるプライベート市場の存在感が一段と高まっています。
富裕層投資家の間では、プライベート市場への関心が高まっています。ただし、実際に投資がどの程度進むかは、市場の規制環境に加え、金融商品の開発状況や販売体制といった様々な要因に左右されます。
2. 現在、富裕層投資家や機関投資家にとって、プライベート市場へのアクセスは容易になりつつあります。その背景には、どのような構造的要因があるのでしょうか?
最近では、商品開発の進展により、プライベート市場に投資しやすい環境が整いつつあります。また、ここ2~3年でファンドの仕組みも進化しており、その一つが、一般にエバーグリーン型ファンドと呼ばれるものです。これらのファンドは、富裕層投資家向けに設計された金融商品であり、定期的に換金できる機会が設けられています。米国では、これらのファンドはインターバル・ファンドやテンダー・オファー・ファンドとも呼ばれ、富裕層投資家がプライベート市場に投資する手段の一つとなっています。
また、ハイブリッド型の商品も登場しています。プライベート市場では富裕層投資家の参入が進んでおり、公開市場とプライベート市場の資産を一つのポートフォリオに組み入れる動きも広がっています。このように、公開市場とプライベート市場の資産を組み合わせたハイブリッド型の商品が登場し、プライベート市場の裾野が広がる中で、同市場の透明性を確保することがますます重要となっています。指数は、市場の実態を明らかにし、一貫した測定基準を提供するとともに、ポートフォリオ構築や投資判断を支える上でも重要な役割を果たすと考えられます。
3. 投資アドバイザーはこれまで、プライベート市場のパフォーマンスを評価する上で、類似するファンドの運用実績や、運用会社が公表する内部収益率(IRR)、キャッシュ金利に一定のスプレッドを上乗せした代替指標などを活用してきました。S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス(S&P DJI)は、こうした評価手法の有効性をどのように考えていますか?また、こうした手法の主な問題点は何でしょうか?
最大の問題は、公開市場とプライベート市場が互いに切り離され、それぞれ独立した分野として発展してきたことだと考えられます。そのため、プライベート市場では、公開市場とは異なる評価指標や報告基準が用いられてきました。両市場を直接比較することは難しいため、投資アドバイザーは、運用会社が公表する内部収益率(IRR)などを用いて、類似するファンドの運用実績を比較することが多くなっています。
ここで問題なのは、パフォーマンス数値の報告方法や報告基準が運用会社ごとに異なる可能性があることです。内部収益率(IRR)の数値自体も、その算出方法によって結果が変わる場合があります。今後目指すべき方向は明らかです。より適切な投資判断を行うためには、異なる資産クラスを共通の基準で比較できる枠組みを整備する必要があります。
4. これまで、プライベート市場を対象とする指数の構築が難しかったのはなぜでしょうか?また、現在では指数の構築が可能になりつつありますが、その背景にはどのような変化があるのでしょうか?
プライベート市場のベンチマークは長年にわたり存在しており、決して新しいものではありません。しかし、S&P DJIでは、プライベート市場のベンチマークをさらに進化させ、「次世代」のベンチマークを開発することに取り組んでいます。
これまで長年にわたり利用されてきたのは、ファンド・レベルのベンチマークです。これらのベンチマークは通常、対象四半期の終了後、しばらくして公表され、主に運用実績の報告や運用会社のデューデリジェンスに用いられています。これまで不足していたのは、ファンドを構成する個々の投資案件まで掘り下げ、その実態をより詳細に把握できる資産レベルの指数でした。
現在では、資産レベルのデータが以前よりも入手しやすくなっています。例えば、プライベート・エクイティでは個々の取引に関するデータ、プライベート・クレジットでは個々のローンに関するデータを利用できるようになりつつあります。プライベート市場では、データソースが多岐にわたり、その形式や基準も統一されていないため、S&P DJIやその他の市場関係者は、データの体系化と標準化に向けた取り組みを進めています。こうした取り組みはまだ初期段階にありますが、指数の構築に必要なデータ基盤は着実に整いつつあります。
5. S&P DJIは、信頼性の高いベンチマークを構築する上で、複数のデータソースをどのように組み合わせているのでしょうか?また、必要なデータを迅速に入手する上で、どのような課題に直面していますか?
必要なデータをすべて網羅する単一の情報源は存在しません。データソースは多岐にわたりますが、市場関係者の間では、データを体系的に整備しようとする動きが広がっています。
S&P グローバルでは、プライベート市場に関する豊富なデータを蓄積しています。当社では、様々な市場関係者と連携しながら、データを入手する方法を幅広く検討する一方、社内で保有するデータの有効活用についても模索しています。
S&P DJIでは最近、複数の指数シリーズの提供を開始しました。すでに述べたとおり、当社では様々な市場関係者との連携を重視しており、指数の信頼性向上につながるデータを保有する市場参加者と協議を進めています。これらのデータを活用し、当社のガバナンス体制と指数算出手法を適用することで、指数を構築しています。
例えば、当社のプライベート・エクイティ指数シリーズでは、プライベート・エクイティ・ファンド上位50本のデータを保有するNewVestと共同で、S&P プライベート・エクイティ50指数の算出を開始しました。
プライベート・クレジット指数では、プライベート・クレジットの評価を専門とするリンカーン・インターナショナルと協力しています。リンカーン・インターナショナルは以前から、ダイレクト・レンディング市場の動向を示すシニア・デット指数を算出していました。当社はリンカーン・インターナショナルと連携し、この指数を当社の指数として取り込み、当社のガバナンス体制と算出手法に基づいて指数を再構築した上で、S&P リンカーン・シニア・デット指数として新たに算出を開始しました。
ここまで、外部のパートナーと連携して指数を構築した事例を2つ紹介しました。すでに述べたとおり、当社は社内で保有するデータも活用して指数を構築しています。
データの適時性という点では、プライベート市場ではデータの公表が遅れる傾向がありますが、資産価値をより頻繁に評価したいというニーズは確実に高まっています。すでに日次で評価額を算出している例もあります。例えば、未上場株式の分野では、スペースXやオープンAIのようなレイトステージのベンチャー企業を対象とする指数を開発しており、これらの指数は日次で算出されています。