「品質は行為ではなく、習慣である」 – アリストテレス
はじめに
このアリストテレスの言葉は、「クオリティ投資」の本質を表しており、時々見られる優れた行為よりも、一貫して堅実な行動を継続することの重要性を説いています。「クオリティ・ファクター」には統一された明確な定義はありませんが、優良な企業は長期にわたって共通の特徴を示す傾向があります。こうした企業は、変化に対応できる効果的なビジネス戦略、堅固な事業運営モデル、健全な財務基盤を備え、継続的に安定したキャッシュフローを創出する力を有している場合が多いと言えます。こうした特徴は、時間の経過とともに、安定したキャッシュフロー、優れた収益性、及び高い効率性といった形で財務指標に表れてきます。
S&P® クオリティFCF貴族®指数は、安定的かつ効率的にフリーキャッシュフロー(FCF)を創出している優良企業のパフォーマンスに連動するように設計されており、2024年9月23日に算出を開始しました。この指数への組み入れに適格となる企業は、少なくとも10年連続でフリーキャッシュフローがプラスであることが必要となります。企業の収益性と効率性は、フリーキャッシュフローに基づく2つの指標(フリーキャッシュフロー・マージン及びフリーキャッシュフロー投下資本利益率(ROIC))を用いて評価されます。この指数は、クオリティやグロースといったファクターを重視しつつ、ディフェンシブな特性を維持するように設計されています。
本レポートでは、S&P クオリティFCF貴族指数の構築手法、及びバックテストのパフォーマンスについて詳しく解説するとともに、指数パフォーマンスの要因分析も行っています。次回のレポートでは、より広範なS&P® 配当貴族®指数シリーズとの比較や、景気サイクル全体を通じたパフォーマンスの検証を行う予定です。
フリーキャッシュフロー:企業の質を測るバロメーター
フリーキャッシュフローとは、企業が生み出したキャッシュから、事業活動の継続、設備の維持、及び持続的な成長などに必要な支出を差し引いた後に残る資金を指します。簡単に言えば、営業コストや設備投資などの必要経費を賄った上で手元に残る余剰資金です。フリーキャッシュフローが潤沢な企業は財務の柔軟性が高い傾向があり、配当の支払い、自社株買い、債務の返済、あるいは成長機会への再投資などを機動的に行うことができます。フリーキャッシュフローは企業の将来性を分析する上で重要な指標であり、ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)によって企業価値を評価する際の基礎にもなります。また、経営陣の経営能力や財務の柔軟性を評価する手がかりにもなります。
指数構築メソドロジーで用いるフリーキャッシュフローは、一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)に基づく「営業活動による純キャッシュフロー」から、設備投資額を差し引いて算出されます。したがって、こうして算出されたフリーキャッシュフローは非GAAP財務指標となります。
企業のフリーキャッシュフローを複数年にわたって評価することは重要であり、これにより財務の健全性と持続性をより正確に把握することができます。この指数ではフリーキャッシュフローの安定性を重視しており、これはS&P 配当貴族指数のアプローチと同じです。この指数ではフリーキャッシュフローに関する以下の3つの主要指標を用いて企業の質を評価します:
- 安定的にプラスのフリーキャッシュフローを創出:少なくとも10年連続でフリーキャッシュフローがプラスである
- 持続的に高いフリーキャッシュフロー・マージンを達成:フリーキャッシュフローを売上高で割った値であり、過去5年間の平均で評価する
- 継続的に高いフリーキャッシュフロー投下資本利益率(ROIC)を達成:フリーキャッシュフローを株主資本と負債の合計で割った値であり、過去5年間の平均で評価する