世界金融危機が深刻化した2008年において、私の同僚は次のように述べました。「下落幅を抑えるという特性こそが、長期的に好調なパフォーマンスをもたらす。」この見方は彼だけのものではありませんでした。つまり、多くの市場や指数が一斉に下落した当時の相場環境において、相対的に良好なパフォーマンスを示した投資対象が注目を集めたのは当然であると言えます。当時、底堅いパフォーマンスを示した指数の一つがS&P 500® 低ボラティリティ指数(以下、「低ボラティリティ指数」という)でした。
あれから20年近くが経過した現在でも、低ボラティリティ指数は市場の下落局面で底堅いパフォーマンスを示しています。実際に、2025年の市場急落時においても同様の傾向が見られました(図表1参照)。
これは特に珍しいことではありません。低ボラティリティ指数は、市場の下落局面で損失を抑えながらも、上昇相場に追随してきた実績があり、この特性は一般に「低ボラティリティ・アノマリー」と呼ばれています。研究者が低ボラティリティ・ファクターのパフォーマンスを「アノマリー」と呼ぶのは、リスクとリターンの間に正の相関関係が存在するという従来の金融理論に反するためです。リスクとリターンの関係が成り立たないのは、低リスク銘柄の株価が過小評価される一方、高リスク銘柄の株価が過大評価される傾向があるためです。これは、投資家の行動や、構造的及び経済的要因が複合的に絡み合っていることによるものと考えられます。
低ボラティリティ指数は2025年3月末までの25年間において、The 500を下回るリスク水準を維持してきました。具体的には、低ボラティリティ指数の年率ボラティリティは11.6%であり、The 500の15.3%を下回っており、ベータ値も0.7と低く抑えられています。低ボラティリティ指数のボラティリティとベータ値が低いのは、市場全体の値動きによる影響を受けにくいためです。さらに、低ボラティリティ指数は、市場の上昇局面で一定のリターンを確保しつつ、市場の下落局面では損失が抑えられるという特徴があります。図表2では、2025年3月末までの25年間のデータに基づき、The 500の上昇局面と下落局面における低ボラティリティ指数の月次キャプチャー・レシオを示しています。