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2022年インフレ削減法が米国EVエコシステムに与える影響
2022年8月11日 | インサイト | 政策および規制
2022年8月7日、米国上院民主党は2022年インフレ削減法案を可決した。同法案は財政赤字の削減によってインフレ上昇を抑制するだけでなく、再生可能エネルギーと電気自動車(EV)の国内製造に投資し、必要なサプライチェーンを維持し、2030年までに二酸化炭素排出量を約40%削減することを目指すものである。
政府の公式文書によると、2022年インフレ削減法(IRA 2022)の範疇で実施されたこの提案では、約7,390 億ドルを調達して約4,330 億ドルを投資し、3,000億ドル以上の総赤字の削減を期待している。IRAが今月後半に可決され成立した場合、米国政府の歳入増加に貢献する最大の要素は、年間収益10億ドル以上の企業すべてを対象とした法人税最低税率15%の導入(約3,130億ドルの歳入増)で、エネルギー安全保障および気候変動対策として今後10年間で米国史上最大となる3,690億ドル程度の支出が賄われる。
IRA 2022の大枠はクリーン自動車製造に限られたものではないが、本稿では、提案の措置がゼロエミッション車(ZEV)エコシステムに今後どのように影響するかに注目する。
まず、IRA 2022では、税額控除の対象となるよう、EVバン、EV SUV、EVピックアップ トラックの最大小売価格が80,000ドルに制限される。セダンやハッチバックを含むその他のEVカテゴリの小売価格は55,000ドルが上限となる。当然ながら基本要件として、国内で製造され北米で最終組み立てが実施された車両が対象となる。報道によるとこの措置に対して、RivianやFiskerなど今後参入予定の EVスタートアップが非難の声を上げているという。
EVとプラグイン ・ハイブリッド車(PHEV)のほか、IRA 2022では燃料電池自動車が初めて対象となっている。
次に、新たに提案された規制では、米国でのEV採用促進を目的として2008-09 年に初めて承認された7,500ドルの税額控除が引き続き提供されるが、その適用資格をEVバッテリー用重要鉱物(クリティカルミネラル)とバッテリーコンポーネントという2つの重要カテゴリに均等分割する新たな条件が追加された。その結果、1台の電気自動車が7,500ドルの税額控除の対象となるには、そのモデルはバッテリー用クリティカルミネラルとコンポーネント、それぞれに設定された要件基準を満たして各3,750ドルの控除を利用する必要がある。
IRA 2022 では、電極活物質、バッテリーセル、バッテリーモジュールなど、対象バッテリーコンポーネントのリストが公表されている。また、アルミニウム、ベリリウム、セリウム、クロム、コバルト、グラファイト、リチウム、マンガン、ニッケル、タングステンなど、対象となるクリティカルミネラルもリストアップされており、今後10年間で米国EVエコシステムの国内製造を強化することを主目的としている。
バッテリー駆動の電気自動車(BEVおよびPHEV)がバッテリー用クリティカルミネラル 3,750ドルの税額控除対象となる要件を満たすには、該当鉱物(公式文書で定義されている)が米国または米国が自由貿易協定(FTA)を締結している他の国で抽出または加工されたもの、あるいは北米でリサイクルされたもの、いずれかの条件を満たさなければならない。バッテリーに使用される該当鉱物の価値の割合は、2024年1月1日より前に販売された車両の場合は少なくとも40%、2024 年暦年中の販売車両では50%、2026年暦年の販売車両では 70%、それ以降の販売車両では80%でなければならない。
バッテリーコンポーネントについても同様に、IRA 2022 では2つの主要法定要件が提案されている。指定コンポーネントは北米で製造または組立が実施される必要があり、該当するバッテリーコンポーネントの価値の割合は、2024年1月1日より前に販売された車両の場合、50%以上でなければならない。提案にある通り、バッテリーに使用されるコンポーネントの価値の割合は毎年10%ずつ引き上げられ、暦年2029年以降に米国で販売される車両では100%まで上昇する。
IRA 2022 がクリーン自動車の国内製造強化を目的としているのは明らかだが、企業がサプライチェーンエコシステムを今後10 年間で段階的に米国へと引き寄せるよう奨励することも狙いとしている。バッテリー、バッテリー生産に使用されるクリティカルミネラル、および希土類鉱物を使用する電気モーターなど他のコンポーネント、これらの国内生産の確保に主な重点が置かれていることに変わりはない。
二酸化炭素排出量の削減と電気モビリティへの移行が世界的に急がれる中、中国を中心とするアジア諸国への依存度を下げることを目指す米国政府は2021年、重要なバッテリー材料と半導体の十分な供給を確保することを国家安全保障の問題と称していた。IRA 2022 は、国内製造業を強化すると同時に、国内での雇用創出も目指す政府のアジェンダに基づいている。
新たな措置では、自動車メーカーが累積販売目標を超えると7,500ドルの税額控除資格が段階的になくなるという、それまで設けられていた20万台の販売上限も撤廃される。報道によると、この条件が廃止される主な理由は、TeslaやGeneral Motors(GM)など大手EVメーカーが販売するモデルが今後も税額控除資格を備えた状態で市場に出回ることで健全な競争を維持し、広範なEV採用を支えられるようにするためだという。興味深いことに、Teslaは2018年に累計20万台のEV販売を達成したが、GMとトヨタのBEVおよびPHEVモデルも従来の規則が適用されていれば控除資格を失っていただろう。
Princeton UniversityのZero Labが発表した「気候とエネルギーに対する2022年インフレ削減法の影響」という予備報告書によると、排出削減に対する政策の直接的影響のほか、IRAには重要な政策措置と制度が含まれており、これらが新興の先進エネルギー産業の革新と成熟、米国のクリーンエネルギー製造とサプライチェーンの構築、投資の推進を促すことになるという。
「この法律は、超党派インフラ法におけるデモンストレーションとハブ資金調達に基づいており、2030年代から2040年代の大規模展開に向けた準備が必要な、クリーン水素、炭素回収、ゼロカーボン液体燃料、直接空気回収、先進原子力および地熱エネルギーといった重要な新興クリーンテクノロジーの革新と成熟を促す初期の市場展開機会を今後10年間に提供する。これらの技術はいずれも強力な展開用補助金(多くは初めて)を利用でき、触媒的な影響を与える可能性が高い」と、Princeton Universityの REPEAT(Rapid Energy Policy Evaluation and Analysis Toolkit)プロジェクト下で IRA 2022 を分析するこの報告書は述べている。
「この法律には、米国における太陽光、風力、バッテリー、電気自動車コンポーネントの製造と組み立て、およびクリティカルミネラルの加工の発展を強力にサポートする内容が含まれている。この法案は、クリーン電力に対するボーナス税制優遇措置とクリーン車購入を対象とした消費者向けの税額控除を国産品調達基準に結びつけ、米国の材料と製造に対する強力な需要をもたらす。また、20億ドルの助成金と300億ドルの融資を提供することで米国の自動車製造をクリーン自動車生産に向けて再編し、370 億ドルの新たな税額控除を提供することで米国の風力および太陽光発電コンポーネント、バッテリー、クリーン自動車の生産と組み立ての能力およびクリティカルミネラル加工の能力に向けた投資を促進する。また、大統領が国防生産法を活用することでヒートポンプとバッテリーの製造、クリティカルミネラル、その他の戦略的優先事項に向けた米国サプライチェーンを構築できるよう、追加の 5 億ドルも割り当てられている。これらの政策は、サプライチェーンの拡大とこれらの技術の迅速なスケールアップの実現にとって重要であるとともに、全国規模で数十万もの製造業雇用を生み出すことになるだろう」とPrinceton UniversityのZero LabはIRA 2022の詳細評価で述べている。
バッテリー用クリティカルミネラルとコンポーネントに関する新規則が税額控除資格を制限?
バッテリーに不可欠な鉱物やバッテリーコンポーネントの調達に具体的条件を設けた新たな提案規制が電気自動車の税額控除資格を制限することになるかどうかは、EVサプライチェーン関係者にとって依然、深刻な問題である。バッテリーセルとモジュールが米国で現地生産されている場合、バッテリーメーカーがIRA 2022 で指定されているように米国または米国とFTAを締結している他の国から重要材料を調達しないとしたら、どうなるのだろうか?
注目すべきは、新たな規制では、税額控除資格を維持するのに重要なバッテリー材料を米国内で、あるいはオーストラリア、カナダ、チリ、モロッコ、韓国、および米国とFTAを締結している他の国から、調達することが求められる点だ。
米国で生産能力を拡大しギガファクトリーを追加建設しようとしている複数の世界的バッテリーメーカーから最近、多くの高額投資が発表されている。たとえば、Stellantis とそのバッテリーパートナーである Samsung SDI は2022年5月、両社の合弁会社がIndiana地域に25億ドルのギガファクトリーを設立すると発表した。2025年に商業運用開始予定のこのギガファクトリーは年間生産能力が当初は23 GWhで、以降数年間で最大33 GWhまで拡張可能となっている。
興味深いのは、プレミアムバッテリー技術と厳格な品質管理を象徴するPRiMXという新ブランドを2021年後半に立ち上げたSamsung SDIが、Glencoreとの間で水酸化コバルト調達に関する5年間の契約を継続しており、UmicoreともNMC(ニッケル マンガン コバルト)カソード材料(韓国で生産)の調達で複数年契約を結んでいる点である。
一方、中国最大のバッテリーメーカーであるCATLは米国に50億ドルの工場建設を計画中と報じられており、最近ではFord Motor Companyとの間で拘束力のない覚書(MOU)に署名している。Ford はリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーパックをCATLから調達し、バッテリー構成に新たな化学物質を追加する計画だと述べている。これにより、FordはNCM バッテリーとの比較で材料を最大15%節約できるものと推定される。CATLとの契約に含まれるLFPバッテリー調達は、FordのMustang Mach-Eモデル向けには2023年に、ピックアップトラックのF-150 Lightning向けには2024年初頭に開始予定である。Fordの計画では2026年から北米で最大40 GWhのLFP バッテリー生産能力を現地化し使用することになっているが、CATLはLFPサプライチェーンを支配する中国からLFPバッテリー材料を調達する可能性があると予測される。
その場合、CATLのLFPバッテリーを搭載したFordのEVが税額控除の対象外になる可能性はあるのだろうか?
「LFPカソードと上流の材料サプライチェーンは中国に大きく支配されている。Fordが税額控除の恩恵を受けたいのであれば、『コンポーネント』要件を満たすためにカソード生産を北米に持ち込むようCATLを説得する必要がある」と、バッテリーの専門家であるS&P Global MobilityのAli Adim Hafshejani氏とJay Hwang氏は述べている。
「LFPの価値命題の1つが低コストであることから、IRA 2022がLFPの化学要素に対する阻害要因となる可能性はあるが、サプライチェーンにおける中国の優位性を考えれば、LFPでIRA要件を満たすのはNCMやNCAと比べて難易度が高くなる。そのため、LFPの選択が税額控除資格の喪失を意味する場合、LFPは低コストという利点を失うことになる」と両氏は重ねて説明する。
両氏はさらに
また、個々のバッテリー部品サプライヤーに対するこの新たな法律の影響について、両氏は次のようにコメントしている。「北米ではすでにセルとモジュールの生産が大きく伸びている。ただし、カソードとアノードの国内生産は現在、わずかである。活物質はバッテリーで最も高価なコンポーネントであることから、要件を満たすにはカソードとアノードの国産化が必要になり、現地調達要件100%のしきい値が設定されている2028年が近づけば尚更だ。10%の税制優遇措置は電極メーカーに、保証されている自動車産業からの需要に加え、北米への投資を奨励するものとなる。減税措置は、カナダでの生産をすでに計画しているPoscoや UmicoreといったCAMサプライヤーに大きな利益をもたらす。こうした現地生産材料をめぐる競争が激化するにしたがい、OEMにはJV やパートナーシップの形成による地位の強化が重要になるだろう」 ただし、S&P Global Mobility の電気モビリティおよびバッテリー担当シニアリサーチアナリストは、この規制(IRA 2022)への準拠はTeslaのような強力な鉱物調達戦略を持つ OEMにとっても困難なものになると予測している。
「鉱物資源に関しては、北米はトップではない。カナダには天然黒鉛の他、Sudbury鉱山のようなニッケル資源がある。米国では、Silver Peakで年間5000トンの炭酸リチウム生産能力を持つ小規模なリチウム生産が行われているが、これで対応できる自動車生産はわずか75,000台分だ。戦略を成功させるにはリソースを可能な限り活用する必要がある。一方、中国はバッテリー材料の精製生産能力を支配している。IRAではバッテリー用鉱物と電極加工に対する10%の減税措置が検討されており、これが鉱物加工と電極製造に向けた国内投資を奨励することになるだろう」と両氏は述べ、次のように重ねて指摘する。「OEMの調達戦略という点で、IRAはOEMにパートナーシップの一部見直しを迫るものになる。たとえば、Teslaのサプライヤーリストには要件を満たす企業はほとんどない。これは戦略の分岐をもたらす可能性がある。ニッケルのインドネシアやコバルトのコンゴ民主共和国など主要生産国に焦点を当てた大量生産の戦略と、税額控除に合わせたもう一つの戦略だ。後者は、国内生産者あるいは米国がFTAを締結している国との提携や投資によって実現されることになる」
執筆:Amit Panday(S&P Global Mobility シニアリサーチアナリスト、バッテリー担当) 情報提供:Ali Adim Hafshejani、Jay Hwang(S&P Global Mobility シニア テクニカル リサーチ アナリスト)
米国大統領、半導体法案に署名
2022年8月10日 - AutoIntelligence | Headline Analysis
バイデン米国大統領が、自動車産業に必要なマイクロチップを含む、米国の半導体製造向けのインセンティブとサポートに520億ドルを導入する法案に署名した。米国政府はホワイトハウスの声明で、現在、米国での生産に対する巨額投資の発表を計画しているマイクロチップメーカーが複数あると述べている。Micronによる400億ドル投資、マイクロチップ製造拡張に向けたQualcommとGlobalFoundriesの間の42億ドル提携などがここに含まれている。バイデン政権はまた、ハイテク製造の認可の調整や科学技術に関する大統領諮問委員会の半導体研究開発に対する新たな勧告の発行など、資金が迅速に展開されるようにするための措置を講じていると述べている。今回の527億ドル資金調達には、自動車および防衛システムに使用される従来のマイクロチップ向けの20億ドルを含む390億ドルの製造インセンティブ、研究開発と労働力開発に対する132億ドル、国際情報通信技術のセキュリティと半導体サプライチェーン活動に対する5億ドルが含まれている。また、半導体と関連機器の製造のための設備投資に対する25%の投資税額控除もある。これらの条件は、法案が下院で可決される以前に上院で7月に可決されて以降、変更されていない。重要ポイント:今回の資金調達によって投資が生まれる可能性はあるが、追加の製造能力による影響がマイクロチップ供給に出るまでには、さらに数年かかることも考えられる。半導体需要は増加し続けており、追加の生産能力が必要であり、すでに発表済みの投資プロジェクトも新たな資金調達の恩恵を受ける可能性がある。半導体供給の不足は世界の自動車製造能力の足かせとなっており、結果として世界のほぼすべての市場で在庫が減少し自動車販売が抑制されている。当社では7月26日時点で半導体不足の問題によるライトビークル生産の累積損失が全世界で202万台に達したと推定している。当社では世界の半導体状況の最新情報を定期的に更新発表している。
米国ライトビークル平均車齢、過去最高の12.5年
2023年5月16日- AutoIntelligence | ヘッドライン分析影響: 米国では新車販売の低迷が続く一方で稼働中のライトビークルの高齢化傾向が続いていることが、S&P Global Mobilityの最新分析で明らかになった。乗用車登録台数は何年にもわたって減少しているが、今年は米国の道路を走る乗用車の台数が1978年以来最低となる見込みで、アフターマーケットの修理事業の商機が急増すると予測されている。
展望: 車齢の伸びは、新車販売の低迷によって米国のライトビークルの平均車齢に上昇圧力がかかる状況が続くとした、S&P Global Mobilityの昨年の予測に沿ったものである。米国のライトビークルの平均車齢はこれで6年連続の上昇となる。また、今年の伸び率は、新車販売台数が激減し平均車齢の伸び率が従来の水準を上回った2008~2009年の景気後退期以降、最も高い伸び率となっている。さらに、ライトトラックやユーティリティビークルの台数は増加し続けていることから、乗用車の保有台数は1978年以来初めて1億台を下回ることになるだろう。
米国では新車販売の低迷が続く一方で稼働中のライトビークルの高齢化傾向が続いていることが、S&P Global Mobilityの最新分析で明らかになった。乗用車登録台数は何年にもわたって減少しているが、今年は米国の道路を走る乗用車の台数が1978年以来最低となる見込みで、アフターマーケットの修理事業の商機が急拡大すると予測されている。
S&P Global Mobilityの米国ライトビークル登録データによると、2023年1月1日現在、米国の道路を走る稼働中車両(VIO)は2億8400万台を上回っている。ライトビークル稼働台数の増加にともない、米国の乗用車とライトトラックの平均車齢も上昇している。今年の分析によると、平均車齢は2022年と比較して3ヵ月以上も長い、12.5年という過去最高の値に達している。
2022年は当初、新車在庫の低水準化を招いた供給制約によって平均車齢に上昇圧力がかかり、その後、金利とインフレによって年後半に消費者需要が鈍化したことで自動車需要も鈍化した。これらの要因の複合的影響により、2022年の小売とフリートを含む米国ライトビークル新車販売は2021年の1460万台から8%減の1390万台となり、過去10年以上で最低水準を記録した。
「当社では、2021年以降には複合的要因がフリートに影響を与え、平均車齢にさらなる上昇圧力がかかると予測していた。その圧力は、金利とインフレの影響が出始めた2022年後半になって増大した」と、S&P Global Mobility アフターマーケット・ソリューション担当アソシエイト・ディレクターのTod Campauは述べている。
S&P Global Mobilityのライトビークル販売予測によると、2023年の新車販売台数は経済の逆風にもかかわらず1450万台を突破し、これにより翌年の平均車齢の伸び率は抑えられる見通しだ。「2023年の平均車齢には上昇圧力が残るものの、2024年の新車販売台数は過去の水準に戻ると期待し、今年は上昇カーブが平坦になり始めると見ている」とCampauは述べている。S&P Global Mobilityのライトビークル販売予測によると、2000年から2022年までの期間の米国ライトビークル販売台数は年間平均で約1560万台だった。
この期間には、2008~09年の景気後退、2020~2022年の新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響、サプライチェーンにおける供給不足、経済圧力、そして販売台数が1700万台の大台を超えた7年間が含まれている。Campauは、米国の年間ライトビークル販売台数の水準を1550万台から1700万台の間と定義している。S&P Global Mobilityの販売予測では、米国のライトビークル販売台数は2024年に1560万台に達する見通しだ。だたし、この10年間で需要が1700万台の壁を越えることはない、とS&P Global Mobilityは予測している。
ますますライトトラックに偏る新車市場、BEV平均車齢は低下傾向
ライトトラック/ユーティリティビークルの販売台数はここ数年増加傾向にあり、2022年には米国で登録された新車の78%がこのカテゴリーの車両だった。スポーツ多目的車(SUV)セグメントが急成長している状況でVIOデータもシフトしており、ライトトラック/ユーティリティビークルが車両総数の63%近くを占めている。
自動車よりもライトトラックを好む消費者は多く、ライトトラック/ユーティリティビークルは自動車よりも維持費が高く、長く乗り続ける傾向があるため、自動車サービス業界にはビジネスの可能性が広がっている。当社の分析によると、今後18~24カ月以内に、米国で稼働中の乗用車(セダン、クーペ、ワゴン、ハッチバック)の総数が1978年以来初めて1億台を割り込む可能性がある。2028年までに、米国におけるVIOの少なくとも70%がライトトラック/ユーティリティビークルになると予測されている。
米国におけるバッテリー電気自動車(BEV)の平均車齢は、昨年の3.7年から下がって今年は3.6年となっている。2017年以降、平均車齢は3年から4年の間で推移しており、BEVの新車登録台数が伸び続けているため、車齢は大きく圧縮されている。S&P Global Mobilityの推計によると、BEVの新車登録台数は2022年に前年比58%増の約758,000台となっている。
しかし、BEVはICE車やディーゼル車に比べ、フリートから離脱するペースが極端に速いため、BEVの平均車齢に圧力がかかっている。S&P Global Mobilityの分析によると、2013年から2022年にかけて米国で登録された約230万台のBEVのうち、現在も道路を走行しているのは約212万台で、約6.6%がフリートから離脱していることになる。BEVを除く他の燃料タイプについては、同時期に販売された約1億5800万台のうち約1億4980万台が現在も道路を走っており、同期間中にフリートから離脱したのは5.2%ということになる。
アフターマーケットに好都合なビジネスパイプライン
ライトビークルの平均車齢の上昇傾向は自動車整備業界にとって好都合だ。フリートの年数が長くなればなるほど、正常に機能するための修理やサービスを必要とする車両の数も増える。一部の例外を除き、使用年数の長い車両を走れる状態に維持するために消費者が注ぎ込む金額は多くなることから、アフターマーケット分野の軌道は通常、平均車齢の伸びに追随する。Auto Care Association and MEMA Aftermarket Suppliersと共同で実施した最新のS&P Globalチャネル予測によると、2022年の米国ライトデューティ車アフターマーケットの収益は前年比8.5%以上増の3565億ドルになると予測されている。2023年については、同予測はインフレやその他の要因による調整前の初期段階で、収益が5%以上増加する可能性があると指摘している。最新のチャネル予測は6月発表予定である。
展望と影響
車齢の伸びは、新車販売の低迷によって米国のライトビークルの平均車齢に上昇圧力がかかる状況が続くとした、S&P Global Mobilityの昨年の予測に沿ったものである(「米国:2022年5月31日: 米国の平均車齢が12.2年に上昇」参照)。米国のライトビークルの平均車齢はこれで6年連続の上昇となる。また、今年の伸び率は、新車販売台数が激減し平均車齢の伸び率が従来の水準を上回った2008~2009年の景気後退期以降、最も高い伸び率となっている。さらに、ライトトラックやユーティリティビークルの台数は増加し続けていることから、乗用車の保有台数は1978年以来初めて1億台を下回ることになるだろう。
この最新調査は、サプライチェーンや経済問題による自動車販売台数の減少が平均車齢の上昇につながっているという説を維持している。平均車齢は少なくとも2011年から伸びているが、2014年は対2013年比で安定していた。新型コロナウイルス感染症の流行のような市場ショックにもかかわらず、自動車の品質と信頼性は全般的に向上しており、新車ローン期間はここ数年伸びている。平均車齢は所有者に関わらず車両が使用されている期間を反映しており、ローン期間が長いほど最初の所有者が車両を長く保有することになるが、これらは中古車市場や車両寿命に対する購入者の期待にも影響する。S&P Global Mobilityでは、米国のライトビークル販売台数が2023年に1480万台、2024年に1570万台まで増加すると予測している。
担当アナリスト:Stephanie Brinley
対中国本土チップ輸出制限:自動車業界への影響
2023年5月16日- AutotechInsight | 今月の分析
中国本土の先進リソグラフィ装置サプライヤーであるSMEEが2023 年、同社最高の装置を使用し 28 ナノメートル (nm) プロセスノードでチップ製造を行う計画である。これは世界トップのリソグラフィ装置サプライヤーであるである ASMLの2015 年の水準と同等である。
日本はこれまでに23種類の先端半導体製造装置を対象とした輸出規制を発表しているが、これは同技術に対する中国本土のアクセスを制限するという米国の圧力に反応したものである。日本の輸出規制は、半導体技術に対する中国本土のアクセスを制限する試みだと捉えられている。この措置は7月に施行される予定で、ニコンや東京エレクトロンなど大手企業約10社に影響を与えることになる。これらの企業がシリコンをチップに変換するための装置を出荷するには許可を取得しなければならず、その範囲は、洗浄から蒸着、アニーリング、リソグラフィ、エッチング、テストまで、予想以上に幅広いものとなっている。
日本と中国本土は重要な貿易パートナー国だが、中国政府の軍事力と経済力の増大に対する懸念から、外交関係は近年緊張している。日本の西村康稔経済産業大臣によると、輸出規制は特定の国を対象としたものではなく「技術の軍事転用を防ぐ」ことを目的としているという。米国は、同技術に対する中国のアクセスを同盟国が制限することを望んでいると明言しており、欧米の当局者、特に米国は、敵対姿勢を強める貿易相手国に対する半導体製造中核部品の提供について懸念を表明している。
西村大臣は、この動きは米国の規制に合わせたものではないとし、「日本の輸出品が軍事用途に流用されないのであれば、輸出を続けるだろう」と言う。また、「技術保有国として国際社会での責任を果たし、世界の平和と安全の維持に貢献していく」とも述べている。
日本の動きは、国際安全保障と国家安全保障を理由にオランダと米国が実施した同様の制限に続くものである。オランダ政府は中国本土へのチップ輸出を抑制する米国の取り組みに加わり、国家安全保障の保護を目的に半導体技術の輸出に新たな制限を設ける計画だと述べている。米国は2022年10月に対外直接製品規則(FDPR)の拡大を発表した。これらの政策手段は、特定の国に対する半導体チップ輸出の禁止に利用される可能性がある。たとえば、NvidiaやAMDといった米国の大手AIコンピュータチップ設計企業による、ハイエンドAIおよびスーパーコンピューティングプロセッサの対中国本土輸出が妨げられることになる。
最近の報道によると、ドイツが、半導体製造に使用される特定の化学物質の対中国本土輸出制限を検討しているという。これは、中国本土への経済依存を減らし、自国の半導体産業を競争や知的財産(IP)窃盗から守るというドイツの戦略の一環である。しかし、これはMerckやKGaA、BASF SEといったドイツ企業にも悪影響を及ぼす可能性があり、これらの企業は当該化学物質を中国本土に販売する機会を失うかもしれない。
中国本土の半導体産業に対する影響
輸出許可の取り消しは、短期的にも中期的にも中国本土の集積回路(IC)産業に打撃を与えるだろう。中国本土のIC産業は、先進リソグラフィ装置など主要コンポーネントを他国からの輸入に大きく依存している。輸出許可が取り消されれば、これらのコンポーネントが不足し、IC生産が滞り、業界に短期的および中期的ダメージを与えることになる。ASMLや東京エレクトロンなどチップ製造装置サプライヤーは世界のチップサプライチェーンの重要な構成要素であり、TSMCのような企業が最先端半導体を製造するために必要な装置を提供している。これらのサプライヤーの装置がなければ、中国本土の国内チップメーカーは先進チップ開発で大きな課題に直面することになる。
中国本土の先進リソグラフィ装置サプライヤーである SMEEは、2023 年に同社最高の装置を使用して 28 ナノメートル (nm) プロセスノードでチップ製造を行う計画である。これは、世界トップのリソグラフィ装置サプライヤーである ASMLの2015年の水準と同等である。中国本土はこれまでに購入した 2000i および 2050i リソグラフィ装置を使用し、より小さなノード サイズ約 14 nmのチップ需要に対応することができる。これらは現在市場に出回っている装置のなかでは最新のものではないが、それでも、より小さなノード サイズのチップを生産でき、そうしたチップに対する市場需要を満たすことができる。これは、中国本土が半導体産業においてある程度の技術力を有しており、輸出許可の取り消しなどの課題に直面しているにもかかわらず、依然としてチップ生産が可能であることを示している。
チップ規格が完全に分離されれば、中国本土では手頃な価格での半導体製造が困難になるため、長期的には、中国本土は独自のチップ製造装置を作らなければならくなるだろう。
チップ制限規則によってさまざまな反応が起こる可能性
中国本土は自らの半導体エコシステム開発を加速させる可能性がある。中国本土はオランダ(ASML)、米国、日本(ニコン、東京エレクトロン)の装置およびIPサプライヤーに対する依存を減らすため、独自の先進チップ製造装置や材料を開発しなければならない。これは今後起こり得る輸出規制や制裁の回避にも役立つ可能性がある。
ライトビークルの先進運転支援システム (ADAS) の動作において、その機能を小型プロセスノードに依存する度合いが高まっている。中国本土は先進インフォテインメントおよびADASの動作強化に用いられる5nm~12nmプロセッサのような先進半導体の製造のため、極端紫外(EUV)および深紫外(DUV)リソグラフィ技術を開発する必要がある。さらに、半導体チップの設計とシミュレーションに使用される電子設計自動化 (EDA) ツールも開発しなければならない。これらのツールは現在、Mentor、Synopsys、Cadence などの企業が独占している。独自のEDAツールを開発すれば、外国技術に対する中国本土の依存度はさらに低下するだろう。
中国本土は自らの半導体産業の競争力と自給能力を維持するために、中国以外の顧客に対して成熟プロセスノードの能力とコンポーネントを制限する可能性がある。中国本土はまた、半導体製造事業の一部を他地域に移転することも検討するかもしれない。これは地政学的リスクを軽減し、他国によって課される可能性がある貿易制限を回避する手段となり得る。
グローバルおよびローカルOEM各社は中国本土のベンダーとのチップ提携の評価を行っており、チップ調達源をグローバルICメーカーと中国本土 IC メーカーに分散することで、OEMは性能とサプライチェーンリスクのバランスを取ることができる。たとえば、VolkswagenとContinentalはHorizon Roboticsと合弁事業を行っている。NvidiaとHorizon Roboticsというデュアルソーシングはおもに、事態が制御不能になりさらなる貿易制限が発生する可能性に対する恐れによるもので、こうした事態は米国と中国本土の間の貿易戦争によって今後起こり得るものである。他のグローバルOEMもほどなく、中国本土市場でのチップ確保を目的としたデュアルソーシング戦略を踏襲することになるだろう。BMW GroupとMercedes-Benz AG も同様の解決策を模索している。
一部の半導体サプライヤーは、輸入制限に従えるようICの性能を下げなければならないかもしれない。2,000テラオペレーション/秒(TOPS)を実現する NvidiaのThorのような高性能 IC については、規制要件に適合させるために低性能版にダウングレードする必要があるかもしれない。ただし、低性能版の製造には、より多くのシステム・オン・チップ(SoC)あるいは設計が必要になる可能性があり、追加コスト、デバイスサイズの大型化、消費電力の増加につながることも考えられる。したがって、コンプライアンス適合に向けたICの低性能化は、製品の設計、コスト、性能に重大な影響を与える可能性があるが、規制基準の達成と関連法規制へのコンプライアンス確保が求められることになるかもしれない。
執筆担当:S&P Global Mobility シニアリサーチアナリスト Rohan Hazarika
Moskvich再生がVW系技術を採用する可能性。 AvtoVAZはRenaultプラットフォームの生産を終了
2022年5月31日 ― AutoIntelligence | Headline Analysis
IHS Markitの視点
影響
Moscow郊外の旧Renaultロシア工場でMoskvich車ブランドを再生する計画は、中国系自動車メーカーのJACがVWとの提携中に開発した車両技術が含まれる可能性がある。一方、AvtoVAZはRenaultの車両技術を採用した自動車の生産を終了した。
展望
ロシアのウクライナ侵攻後にRenaultが象徴的な価格である1ルーブルで支配権を売却したが、今後はMoskvichブランドの再生計画とAvtoVAZ事業の事実上の国有化の両方がロシアの乗用車開発の短期的および中期的動向のカギになるだろう。ロシアで製造および販売を行っていた欧州系自動車メーカーはすべて同国市場から撤退した。
旧ソ連時代の代表的自動車ブランドであるMoskvichをMoscow郊外の旧Renaultロシア工場で製造し再生する計画では、図らずもVolkswagen(VW)Groupのノウハウが活用される可能性をDie Weltが報じた。Moskvichとロシア最大のトラックメーカーのKamAZが中国系自動車メーカーのうち1社との技術契約に合意した場合に起こる事態である。KamAZが中国系自動車メーカーのJACと協議に入ったことはこれまでも報じられてきたが、ロシアの新聞Vedomostiは、KamAZがFirst Automobile Works(FAW)とも車両技術パートナーシップの可能性について協議したと伝えている。両社とも中国で数十年にわたりVW車を製造してきた長い歴史を持つ合弁企業(JV)を所有している。JACとFAWはいずれも長期にわたり独自アーキテクチャで車両を製造してきたが、両社のエンジニアリングチームはVWとのコラボレーションから多くの知識を獲得してきた。VWの広報担当者は、中国ではJACとFAWが長年のJVパートナーであった一方で、両社の製品はいずれもそれぞれの独自の車両アーキテクチャとテクノロジーを使用していることを速やかに認めている。新たなMoskvichプロジェクトとJACまたはFAWの関与も国レベルで合意されることになり、契約は事実上ロシア政府と中国政府が主体となる。ウクライナにおける戦争がもたらしたロシア政府と西側諸国政府との関係とは異なり、中国政府とロシア政府の関係は引き続きオープンかつ友好的であり、中国政府とその支配下にある自動車メーカー各社は、ロシア市場からの欧州系自動車メーカーの完全撤退によってロシアに大きな商機を見出すことになりそうだ。
一方、ロシア最大の自動車メーカーであるAvtoVAZは、Renault Groupの技術をベースとした最後の車両の製造と出荷を完了したことを発表した。Renault Groupは今月初め、AvtoVAZとMoscow近郊のRenaultロシア工場の両方の支配権をロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所(NAMI)に、象徴的な価格としてそれぞれ1ルーブルで売却することに合意した。Renaultの技術とアーキテクチャで製造された車両、Sandero Stepwayの最後の2台は5月27日にディーラーに出荷された。
展望と影響
VW Groupと、JACまたはFAWのいずれかが提供する車両技術およびアーキテクチャとの間には直接的な関係はないが、欧州最大の自動車製造グループであるVWとの長年の協力関係は今後も大きな影響を及ぼすことになるだろう。事実、ロシアの自動車製造業は、ウクライナ侵攻と米国・EUに課された経済制裁によって、生き残りが危ぶまれるほどの大きな打撃を受けた。Renaultは今月初め、AvtoVAZの株式68%を売却し、かつてクロスオーバー車のRenault ArkanaとKapturを製造していたRenaultロシア工場の支配権を放棄、ようやく市場から撤退できた。Moscow市長が同工場でのMoskvichブランド車の生産再開に向けた主導的役割を担っており、この野心的な計画によると、今年末までに旧ソ連時代の同ブランド下で車両生産を立ち上げ稼働させることを目指しており、実現にはほぼ確実に中国系メーカーによる何らかのターンキーソリューションが必要になる。Moskvichプロジェクトの公式技術パートナーであるKamAZはロシア最大のトラックメーカーであり、独自のライトビークル技術を持っていないため、同社の主な役割は既存の乗用車メーカーとの提携交渉になる。JACとFAWはいずれも、VWの影響を大きく受けて開発されたものではあるが、手頃な価格の独自製品を持っているという点で要件を満たしている。最も起こりそうな結果として考えられるのは、Moskvichプロジェクトがおおまかに説明通りのスケジュールで軌道に乗った場合、少なくとも当初は、完全ノックダウン(CKD)キットを輸入し旧Renaultロシア工場で地元労働者によって組み立てる、という形態である。一方、AvtoVAZが今後はRenaultの独自車両技術やサプライチェーンにアクセスできなくなることを考えると、AvtoVAZがここからどのように進んでいくのか大変興味深い。当社では、AvtoVAZが独立企業として車両生産を続けることを前提としている。Renaultプラットフォームによる新車は予測から除外しており、再構成された新会社が構築するモデルとして残るのは、Granta、Niva、Grand Niva、Vestaだけである。
担当アナリスト:Tim Urquhart
半導体供給問題:ライトビークル生産トラッカー
2022年5月30日 - AutoIntelligence | 戦略レポート
S&P Global Mobility(旧IHS Markit)は、現在進行している半導体供給問題がライトビークル生産に与える影響を評価している。
自動車セクター向け半導体サプライチェーン混乱の報告は2020年後半に始まり2022年第1四半期に入っても継続し、地政学的混乱に対する不確実性は高まっている。2020年上半期から人類が経験した、広範囲にわたる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとその対策としての封鎖から蓄積されていった需給圧力は、さらに大きな家電セクターからの需要の拡大とぶつかり、年の後半にはホリデーシーズンに向けて在庫の積み増しが進められた。2021年3月19日には日本のルネサス那珂工場で火災が発生、同工場の完全な稼働再開が6月下旬になったことや、2021年2月には米国南西部が荒天に襲われたことも重なり、状況はさらなる困難を極めた。直近では、COVID-19による影響が東南アジアの一部、特に半導体供給プロセスで多くの労働集約的バックエンドタスクを引き受けるマレーシアに及んでいる。さらに現在はこの他の要因も浮上し、生産に影響を与えるようになってきた。
本稿では、打撃を受けた主要自動車メーカー数社を選び、各社が状況緩和に向けて取った措置と今後の展望について解説する。
半導体
Shutterstock/Dario Lo Presti
Ford
Fordは、北米と欧州の両地域で大きな打撃を受けている。北米では2021年第1四半期に数週間の停止が発生、特に年間を通じてこの状態が継続した一部の拠点では大きな打撃を受けた。Explorer、Bronco SportおよびBronco、Lincoln Navigator、F-Series、Rangerピックアップなどの重要モデルの生産に影響が及び、バッテリー式電気自動車(BEV)であるMustang Mach-Eは2021年第4四半期に打撃を受けた。2022年第1四半期には生産の混乱が拡大し、F-SeriesやMustang Mach-Eの生産を含め、現在この地域の拠点の大部分に影響が出ている。第2四半期に停止したのはFord Mustangを製造するFlat Rock(米国)が最初で、以降はLouisville(米国)とOakville(カナダ)も続いた。
西欧と中欧の全拠点も2021年に数週間の停止の影響を受けた。KugaとTransit Connectを製造するValencia(スペイン)、Pumaを製造するCraiova(ルーマニア)、Fiestaを製造するCologneとFocusを製造するSaarlouis(ともにドイツ)の各拠点では、4四半期連続で半導体不足による混乱が見られた。TransitとTransit Customを製造するトルコ・OtosanのKocaeli工場は2021年第2四半期に長期間停止した後、第4四半期にも停止に見舞われた。コンポーネントの供給不足によりSaarlouisとCologneでは2022年第1四半期に操業短縮と停止が発生、両サイトとも第2四半期も停止した。Craiovaサイトも2022年第1四半期に1日停止、Valenciaは第2四半期に数日間停止などの影響が見られた。
2021年にはアジアの工場でも数件の生産停止があり、中国、インド、タイで操業が縮小した。インド事業は2022年第1四半期にも停止に見舞われ、Fordでは2022年第4四半期までにインドでの生産の終了も計画している。
Fordは第1四半期の決算発表で、半導体不足と材料費高騰の影響で卸売出荷と収益が減少しコストが上昇したと述べ、半導体不足とサプライチェーン問題の解決に引き続き取り組んでいることを付け加えた。そして在庫量の低い一部のコンポーネントのニーズを減らすためのエンジニアリングの見直しなど、下半期の改善に向けた措置を講じていることを説明している。Fordの産業プラットフォーム担当最高責任者であるHauThai-Tang氏は、入手できなかったフロントガラスワイパーモジュールのないフルサイズピックアップとユーティリティビークルを多数生産し、マイクロチップまたは関連コンポーネントを待っている状態の車両が約53,000台あると述べている。同社によると、車両にパーツを後付けしてディーラーに送ることでその後の数四半期にコストの影響が出るが、第1四半期には生産に新たなコンポーネントを使用したことでコストに影響が出た、と説明している。CFOのJohn Lawler氏は、一部の半導体ウェハーサプライヤーは生産能力を増強しており、2022年後半と2023年には稼働が開始することでマイクロチップは入手しやすくなり、生産稼働率は通常に近くなるはずだ、と述べた。またThai-Tang氏は、Fordが3月に過去数四半期で最高の生産稼働率を達成したことにも触れている。
General Motors(GM)
2021年の半導体不足の結果、GMの北米、南米、アジアで事業全体に影響が見られ、これは2022年まで続いている。北米ではフルサイズのピックアップトラックやスポーツ多目的車(SUV)など、利益率の高い製品への影響を回避しようとしたものの、主に2021年第3四半期にコンポーネントが不足したため、生産の混乱を回避できなかった。カナダの1拠点とメキシコの2拠点では2021年第4四半期に実施された1シフト制の生産スケジュールが2022年に入っても継続している。2022年3月には、FairfaxとBowling Greenの両工場でも追加のダウンタイムが発生した。GMでは2022年第2四半期初めに、フルサイズのピックアップトラックの一部を製造するFort Wayne(米国)施設で2週間の停止を実施した。
ブラジルでは事業に大きな混乱が続いており、Gravatai施設は約5ヵ月間続いた停止の影響を受けた。年末の操業停止は2週間と通常より長くなり、2022年2月と3月には約1ヵ月という停止が発生した。São Caetano do Sul工場では、最近の生産停止が年末まで延長されて休業期間が通常より長くなり、2022年初まで4週間続いた。São Jose dos Campos工場も2021年末に3週間の停止となった。韓国のGMの2拠点でも2021年の4四半期を通してさまざまな時点で生産台数が削減された。2022年最初の週のPupyongの停止も一部モデルに影響を与え、他モデルも1月までに生産台数が50%減少された。Pupyongでは2022年第2四半期にもさらなる減産が計画されている。中国では、2021年第2四半期と第3四半期にSAICとGMの合弁事業(JV)で限定的な生産中断が見られたが、2022年はこれまでのところ、半導体問題に関連する混乱は報告されていない。
4月初旬の第1四半期決算発表でGMのCFOであるPaul Jacobson氏は、生産はおおむね通常通りだったが在庫の再構築による受注残への対応はまだ実施しておらず、在庫は引き続きタイトである、と述べた。この状況はGMの対ディーラー卸売台数が先四半期に前年比1.2%増の831,000台に増加したことでも示唆されている。これは同社による車両価格引き上げとGM製品の需要拡大にもつながるだろう。2022年には卸売が前年比25%~30%増に改善すると見られている。
Ford社長であるMark Reuss氏はかつて、自社車両に使用する特定半導体数を95%削減を目指すと述べていた。この動きにより、不足以降のGMの半導体フローが強化される可能性があると言われて、さらに必要となる半導体は今後数年間で2倍以上になると見られている。またGMはコアマイクロプロセッサチップの購入を今後は3系統に統合する方向にあり、これらの系統は主要半導体メーカーと共同で開発、調達、構築されることになる。
Renault-Nissan-Mitsubishiアライアンス
Renault-Nissan-Mitsubishiアライアンスにはいずれも半導体不足の影響がある程度見られる。Renault Groupの欧州事業は、特にスペインで影響を受けている。2021年の4四半期すべてを通じてダウンタイムが発生し、2022年第1四半期もPalenciaとValladolidの両工場が停止、第2四半期にもさらに計画が立てられたため混乱が継続した。フランスでのRenault Groupの小型商用車(LCV)とBEVも2021年に国内サイトで影響を受けたモデルであり、2022年にはFlinsで冬季閉鎖が実施され、Sandouvilleでも2022年第1四半期と第2四半期にダウンタイムが発生した。Douai工場でも4月に2週間生産を停止した。中欧で影響を受けたモデルにはPitesti(ルーマニア)を中心にDaciaブランドの低価格車が含まれており、4月にはさらに1週間の停止が発表された。同社のトルコとロシアの拠点も2021年に影響を受けた。トルコ施設は2022年第1四半期に長期間停止を実施、第2四半期にも中断が見られた。Togliatti(ロシア)施設では1月に多くのシフトをキャンセルした後、ロシアのウクライナ侵攻を受けて生産が何度も中断され、さらなる混乱と供給の問題により、夏季の操業停止を7月ではなく4月に実施する計画だ。さらに、同拠点は6月から8月まで週4日稼働に移行し、停止で苦戦しているIzhevsk(ロシア)でも同様の措置が取られる。その他の同社拠点は影響が比較的穏やかで、たとえばSão Jose dos Pinhais(ブラジル)工場では年末の休業期間を2022年1月中旬まで延長し、第2四半期初めにも停止した。Oragadam(インド)施設では2月と3月に非生産日を記録、第2四半期にも多くの非生産日が見込まれている。
日産は日本の複数の拠点で課題に直面している。2021年第2四半期に始まり、台数への影響は第3四半期に拡大し、第4四半期にも継続的な生産調整でさらに悪化したケースもあった。2022年第1四半期には、九州第1工場を中心に日本事業で減産が実施された。北米では2021年第2四半期に生産調整が始まり第3四半期に増加、さほど劇的ではないものの第4四半期も継続した。しかし、2022年第1四半期にはメキシコの4拠点と米国の2拠点で生産が停止、米国ではさらに別の3拠点で第2四半期に混乱が発生した。インドやタイなど、他の地域の拠点でも減産の影響が出ており、今後も影響は続くだろう。タイのある拠点では2021年12月から3月まで1シフト制を実施、さらにSamutprakarnの両拠点でも生産が混乱し第2四半期まで継続する見通しだ。ブラジルのResende工場では1月の最初数週間に影響が見られ、部品不足のため7月の操業停止期間を5月26日~6月13日に移すことになっている。
三菱も、日本での軽自動車とクロスオーバー車の生産と、タイとインドネシアのサイトでの製造モデルの調整を行っている。2022年第1四半期と第2四半期には、主に製造率の低下によって、インドネシアとタイの一部の拠点でさらなる減産が実施されている。
Renault Groupによる2022年第1四半期の売上高と収益の業績発表では、逆風要因に加え、半導体不足の影響が引き続き注文への対応能力に打撃を与えていることが分かった。Renault Groupのライトビークル世界販売台数は、同社のデータによると、同四半期に前年比17.1%減の551,733台となっている。これにより、2022年には主に上半期に約30万台の生産が失われるとの見通しを認めている。しかし同社は台数よりも価値の創造に重点を置く販売方針の継続によって大部分を埋め合わせており、最も収益性の高い販売チャネルでの販売シェアが大きくなっている。これはまた、欧州で3.9ヵ月分に相当する受注にもつながっており、自動車事業(AvtoVAZを除く)在庫が336,000台と低い水準にあることと一致している。これは2021年第3四半期および第4四半期の終わりと同様の数値だが、2021年第1四半期からは31%減少した。顧客に車両が到達するという前向きな兆候かもしれないが、同社の在庫は2021年第4四半期末の91,000台から2022年第1四半期末には159,000台に増加している。5月16日、RenaultはAvtoVAZの株式を象徴的な価格である1ルーブルでロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所に売却し、Renaultロシア工場がモスクワ市当局に引き継がれることを発表した。
Stellantis
Stellantisの北米事業は、半導体不足による重大な混乱を何度か経験した。2021年にはToluca(メキシコ)での23週間、Belvidere(米国)での24週間、Windsor(カナダ)での25週間を含め、同社拠点の大部分が数週間の生産停止に見舞われた。一部の拠点では、特に新しく収益性の高い車両について、影響の回避または最小化に成功している。広範囲の生産拠点に対する不足の影響は2021年第4四半期には比較的限られたものだったようだが、Windsorでは2022年1月に1週間の停止が発生、2月にも3回、数日間の停止が発生した。Belvidereでは 2月から3月までの間に数週間の停止が、4月にもさらにダウンタイムが発生した。4月にはMack Avenue工場がこの状況が始まって以来初めて1週間の生産停止を実施した。
欧州事業の状況はまちまちだが、2021年には旧Fiat Chrysler Automobiles(FCA)とGroup PSAの施設全体で複数拠点が打撃を受け、その深刻度はさまざまだった。旧FCA施設の中では、2022年に入ってこれまでのところ、幅広いバン製品を構築するVal di Sangro(イタリア)、さらにCassinoとMelfi(ともにイタリア)での生産も第1四半期に打撃を受け、4月にもさらに停止が発生している。Tychy(ポーランド)も3月に停止した。旧PSA拠点での混乱は2021年に、西欧と中欧で組み立てのサブコンパクトCMPとコンパクトおよびミドルサイズEMP2アーキテクチャに基づく車両製造拠点全体で発生した。生産停止やシフトキャンセルに加えて、一部の人気モデルでは、残業や追加作業の計画が取り消された。最も注目すべき動きの1つが、Eisenach(ドイツ)で第4四半期全体の生産を停止する計画だった。スペインでは、Vigo工場で一時帰休支援制度(ERTE)の利用を2022年まで60日間延長することで合意、これはさらに15日間延長可能だが、第1四半期と第2四半期にすでに利用されている。Madrid施設でもERTEの利用が2022年まで延長された。一方、ZaragozaではERTEが2022年に60日間に延長され、年初に2日間停止し、2月、3月、4月にもさらに停止が可能になった。前向きな点としては、コンポーネント供給の制約が緩和されたことから同社は1月にMulhouse(フランス)の生産ラインに第2シフトを導入し、新世代のPeugeot 308の生産拡大に対応している。しかし、その後の2月に生産が停止し、4月中旬から第3シフトを実施する計画が遅れている。SochauxとRennes(ともにフランス)も2022年第1四半期に停止に見舞われ、前者は4月上旬に第2シフトを数日間中断した。
Stellantisのもう1つの主要生産拠点はBetim(ブラジル)施設である。同施設は2021年の最初の3四半期に混乱に見舞われたが、業界の専門情報では第4四半期の影響がこれまでで最大だったことが示唆されている。これは同社が、Pernambuco(ブラジル)施設で製造の、より収益性の高い製品を優先しているためと考えられる。
2022年5月の第1四半期決算発表でStellantisは、台数と市場構成がもたらした22億ユーロ相当の損失を価格設定とコンテンツが埋め合わせ、結果として強力な収益を計上した。これは半導体の受注不履行で生産が減少したことにより、連結出荷台数が前年比12.2%減の142万台となったことの裏付けとなっている。現在も継続している不足は、特に消費者需要が供給を上回っていることから、Stellantisではこれまでに在庫レベルの大幅な調整ができていないことを意味する。同社の発表データによると、2022年第1四半期末時点の新車在庫は807,000台となっている。これは2021年第4四半期末の在庫である791,000台から増加しているが、1年前の在庫である1,234,000台を大きく下回っている。同社はまた、ディーラー在庫が2021年第4四半期と比較して第1四半期には約9.6%減の628,000台になり、中国本土と北米を除くすべての地域で減少したと述べている。
Stellantisはまた2021年12月に、同社が将来使用するさまざまな種類の半導体の合理化に向けたFoxconnとの契約の締結を発表した。CEOのCarlos Tavares氏はその後の2022年3月に、同社が自社生産拠点に近い拠点からの半導体調達を検討すると述べた。半導体の現地調達化の拡大に向けて「多くのイニシアチブ」が実施されており、今後3〜4年以内に欧州と米国の地域内での調達が可能になるという期待を同氏は語っている。
Volkswagen(VW)Group
Volkswagenは、主に欧州拠点で圧力がかかっている。2021年には、VW Golfを製造する中核拠点のWolfsburg工場や、コンパクトおよび中型のAudiモデルを製造するIngolstadtとNeckarsulmを含む、ドイツの多くの施設で停止が発生した。半導体関連の混乱はIngolstadt、Emden、Wolfsburgで2022年第1四半期まで続いたが、第2四半期にもNeckarsulm、Ingolstadt、Wolfsburgで一定期間の減産が実施され、後者は5月と6月に3ラインで夜勤シフトを削減した。重要なMEBベースのBEVを構築するMoselとDresdenも2021年下半期に生産停止を経験したが、2022年に入ってからはこれまでのところ半導体不足による影響の証拠は見られない。欧州の他地域の拠点でも2022年初めに混乱が見られた。SEATが運営するMartorell(スペイン)施設は1月第2週に減産を実施した。SkodaのMlada BoleslavとKvasiny(チェコ)の両工場は2021年末に未完成車の受注残に直面、両工場の昨年の生産ロスは合計で6桁に達した。
欧州外でも、2021年の4四半期すべてにおいて北米や南米などの主要地域で混乱と停止を経験した。ブラジルにある3拠点すべてが第1四半期に打撃を受けたが、うち2拠点は2022年第2四半期にも混乱を経験している。メキシコのPuebla拠点は2022年第1四半期と第2四半期に停止、San José Chiapa工場も打撃を受けている。中国でも2021年第1四半期と第2四半期に打撃を受けた後、第3四半期にグループ傘下のFAWとVWによるJVとSAICとVWによるJVで混乱が発生したが、同社はそれ以降、これに直接関連する不足は経験していない。
VW Groupは2022年5月第1四半期の決算発表で、部品不足によって売上高が減少したものの、当期は好調に推移したと報告した。これは、原材料費のヘッジに成功するとともに、最も収益性の高い車両を製造する生産現場にコンポーネントを向けることができたと同社は説明している。2021年の厳しい業績を踏まえ、VWでは今年の売上高を前年比8%から13%の増加と見込んでおり、今年末にかけて第1四半期と同じ要因を活用することで、2022年には7.0%から8.5%の営業利益率達成を目指している。
トヨタ
トヨタでは、2021年最初の2四半期に生産にわずかな変動が見られた後、9月のグローバル生産計画を40%削減することを8月中旬に発表した。これは日本だけでなく、北米、欧州、南アジアの施設、さらに中国のJV施設にも影響を及ぼした。9月中旬のトヨタによる2回目の発表では、9月の生産予測がさらに引き下げられた。10月と11月にはさらに削減が行われたものの、12月には通常の生産率に移行している。2022年初頭には、2021年の生産水準を超えると予想されていたが、その後1月下旬になって、同社の日本事業はCOVID-19による生産停止に悩まされた。トヨタはその後数ヵ月でロスを埋め合わせることを期待し3月の生産計画を95万台に調整し、2021-2022年度の予測生産台数は900万台未満という台数目標に対して約850万台となっている。同社は現在、2022-23年度第1四半期に当たる4月~6月の生産計画をさらに調整している。4月のグローバル生産目標は75万台で、当初計画に比べて15万台削減となっている。5月の総生産台数も同程度となるが、Shanghaiの封鎖の影響で6月のグローバル生産台数は5万台削減の約80万台になることを同社は認めている。現在、6月~8月の平均生産台数は月間85万台程度と見込んでおり、2022-23年度の総生産台数は970万台と予測しているが、不確実な状況の継続により、実際の生産台数は減少する可能性がある。
その他
ホンダやHyundai、さらにBMW GroupとMercedes-Benz Groupも生産停止を余儀なくされている。これらのメーカーの停止と生産台数への影響の詳細は、S&P Global Mobilityによる混乱評価に記載されている。評価は毎週公開され、確認された事象の累積記録となっている。ただし、その点では主要自動車メーカー全社が対象ではないことにご注意いただきたい。製造スケジュールは半導体不足をできるだけ適切に組み込むよう調整されており、今後は自動車メーカー各社から驚くべき発表はないものと見られる。変更内容があまり大きくなくなってくるとともに発表もさほど劇的なものではなくなり、今後の製造スケジュールは、2021年を通して見られたような大規模な変更の発表に基づくものではなく、状況の推移を見ながら細かい調整が適宜行われる「ストップ&ゴー」ベースになるものと考えられる。ロシアとウクライナの紛争危機による影響と中国本土でのCOVID-19封鎖措置による影響との境目は曖昧になりつつあり、生産ロスの詳細を判断するのがますます難しくなってきている。当社の週次実績追跡ファイルでは個々の創造的破壊要因に対応する個別タブを表示しているが、週次ロスすべてを1枚のシートにまとめる「統合」タブも含むようになった。ロシア-ウクライナ関連の追跡については、生産ロス発表の結論が難しい性質であることから今後も分離して評価するため、累積ロスの全体像を週単位で作り上げるのが難しいのが現状である。ライトビークル生産向け半導体の供給問題の最新の評価内容については、ここからアクセスしていただけます。
担当アナリスト:Stephanie Brinley、Ian Fletcher
オートモーティブ地理レポート - インドネシア
インドネシアの⾃動⾞販売と⽣産は2021年に⼒強い成⻑を記録した。インドネシアの⼈⼝1 ⼈当たりの⾃動⾞保有台数は世界でも最低⽔準にあり、2021 年は1,000 ⼈当たりわずか112台と推定されている。政府のCOVID-19ワクチン接種の 取り組み、奢侈税の減税、⽐較基準となる前年実績の低さが、昨年の全体的な⽣産と市場の成⻑に貢献した主な推進⼒だった。
S&P Global Mobilityでは、インドネシアの新⾞市場が経済の好転とインセンティブにけん引されて2022年に改善すると予測している。消費者の購買⼒を刺激するべく、複数の⾃動⾞メーカーが新たなネームプレートを多数導⼊する計画だ。
中国の5月乗用車販売、COVID-19封鎖に伴う混乱で減少の見通し
2022年5月26日 ― AutoIntelligence | Headline Analysis
IHS Markitの視点
影響
中国の5月の乗用車販売は減少が予測されているが、その要因として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生によって市当局が導入した封鎖措置が市場の正常状態への回復ペースを遅らせていることが挙げられる。
展望
S&P Global Mobility(旧IHS Markit)による5月の最新予測では、中国本土の2022年ライトビークル生産台数は2.5%減の約2,397万台になる見通しだ。
中国の乗用車販売台数は4月に前年比43%減の落ち込みを記録したが、5月は前年比19%減の132万台になると中国乗用車協会(CPCA)は見込んでいる。
中国の5月の乗用車販売は減少が予測されているが、その要因として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生によって市当局が導入した封鎖措置が市場の正常状態への回復ペースを遅らせていることが挙げられる。中国国家統計局(NSB)が発表した最新データによると、4月の自動車小売販売台数は前年比31.6%減だった。この不振により、今年1月~4月の4ヵ月間の自動車小売販売金額は前年比8.4%減の1,333億元(1,980億ドル)になった。4月のデータによると、COVID-19の封鎖によって打撃を受けたのは自動車セクターだけではなかった。中国経済の名目小売販売金額は、Shanghaiでの封鎖とJiangsuとJilinでの厳格な封じ込め措置によってすべての主要消費カテゴリーが打撃を受け、全面的な急減が記録されたことから、4月には前年比11.1%減となっている。
CPCAでは5月の最初数週間の販売データを編集し同月の販売見通しを提示している。CPCAは、前年比43%減という4月の落ち込みに続いて、5月の乗用車小売販売台数も前年比19%減の132万台になると見込んでいる。4月に比べて減少幅は縮小しているものの、5月に予想される業績の低迷は、COVID-19のパンデミックが自動車販売をさらに圧迫し、自動車需要の回復を刺激策で支援する必要があることを示唆している。S&P Global Mobilityは5月予測で中国本土のライトビークル販売見通しを修正した。中国本土の2022年ライトビークル販売は前年比2.1%減の2,340万台になると現時点では予測されるが、Shanghaiの封鎖前に発表された2月予測では、前年比3.9%増の成長が見込まれていた。
中国の中央政府は、市場の安定化に向けて自動車の消費と投資を促進するインセンティブ制度の展開を加速するよう関係部局に要請した。これらの制度のなかには、乗用車購入を対象とした600億元(89億ドル)規模の減税措置も含まれている。中国のLi Keqiang首相は5月23日に、新車購入に対する免税制度を確認したが、その詳細はまだ発表されていない。地方レベルの政策は主に、自動車購入の制限緩和と新規購入への助成金支給に重点を置いている。たとえば、Shenzhenは2022年に新エネルギー車を購入する消費者に最大10,000元を提供する。市当局はさらに、十分な予算を持つ消費者の新車購入を増やせるよう、車両ナンバープレート割り当てを20,000台分増加している。また、Changchunも自家用車の購入者を対象とした同様の制度を発表している。
展望と影響
Li首相が発表した600億元規模の減税は、COVID-19による封鎖後の景気後退を埋め合わせるための33の措置を含む広範な刺激策の一部である。ShanghaiとJiangsuでパンデミックを取り巻く状況が安定化していることから、これら地域の自動車市場を対象とした特定のインセンティブ制度が近々進められる見通しだ。ただし自動車セクターは、継続中の半導体不足やCOVID-19パンデミックによる工場の操業停止など、供給側の制約による課題も依然として抱えているため、一部の量産車の納品遅れが発生しており、繰り延べ需要の解放を活用しようというディーラーの努力が台無しになりかねない。Bosch ChinaのChen Yudong社長は最近の記者会見で、Shanghai-Jiang地域の一部のサプライヤーが政府の「ホワイトリスト(封鎖期間中に業務再開の許可を得ている企業のリスト)」に載っていないため、Bosch Chinaの工場は5月中にフル生産能力に達することができないと述べた。また、TeslaのShanghai工場は4月19日の再開以来、1シフトで稼働している。今週初めのReutersのレポートによると、Teslaは5月24日には日次生産台数を封鎖前の水準まで引き上げられたかもしれないという。しかし、Teslaはこれをまだ認めていない。S&P Global Mobilityによる5月の最新予測では、中国本土の2022年ライトビークル生産台数は2.5%減の約2,397万台になる見通しだ。自動車メーカー各社は恒例の夏季の操業停止期間を短縮することで第3四半期に生産ロスの一部を補うと見られ、これにより下半期の生産は改善に向かうと考えられる。
担当アナリスト:Abby Chun Tu
欧州議会、2035年以降のICE乗用車およびバンの禁止を承認
2022年5月16日 | ニュース | 政策および規制
欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)が、2035年以降の欧州で内燃エンジン(ICE)を動力源とする自動車およびバンの新車販売を禁止するという欧州委員会の提案に賛成票を投じたことが発表された。この提案は欧州委員会が昨年作成した政策パッケージ「Fit for 55」の一部として実施されたものである。注目すべきは、ENVIが、平均フリート排出量を対2021年比で2025年までに20%、2030年までに55%、2035年までに100%削減することを自動車メーカーに要求する新たな基準に賛成票を投じたことである。
Source: Getty image/sefa ozel
「2035年までにゼロエミッション道路モビリティを達成するという欧州委員会の提案に対し、議員らは支持を表明した」との記述が公式文書にあり、さらにゼロエミッション車と低排出車のインセンティブ機構の削除が提案措置の一部として含まれている。提案では厳格度を増した目標(CO2 7g/kmという従来の制限は2024年まで残り、2025年から5g、2027年から4g、2034年末まで2gとなる)にしたがい、エコイノベーションに向けて上限値を徐々に引き下げていく。
一方で、ENVIは新たな2027年中間目標と、CO2 75%削減に引き上げられた2030年目標の要求は拒否したと報じられている。「CO2基準は自動車業界に明確な目標を設定し、自動車メーカーの革新と投資を促進する。消費者にとっては、ゼロエミッション車の購入と運転にかかるコストが下がることになる。ディーゼルとガソリンの価格が上昇し続けている今、これは特に重要だ。この規制によって、誰でも持続可能な運転にアクセスできるようになる」とENVIの報告担当者であるJan Huitema氏は述べている。
重要ポイント:ENVIが提案した措置により、欧州委員会はEU市場に出回る自動車とバンのライフサイクル全体のCO2排出量と燃料およびエネルギーを評価するための域内共通の手法を2023年までに考案することを求められている。2025年末までに、そしてその後は毎年、ゼロエミッション道路モビリティに向けた進捗状況に関するレポートを作成し、消費者と雇用への影響、再生可能エネルギーの使用レベル、中古車市場に関する情報が収録されることも公式文書は伝えている。欧州委員会は2021年7月、「Fit for 55」パッケージの一部として、乗用車および小型商用車のCO2排出性能基準の改訂に関する法案を提出した。この提案は、道路にゼロエミッション車を配備することで一般市民に利益をもたらし、ゼロエミッション技術の新たな革新を促進することに加え、EUの2030年および2050年気候目標に貢献することを目的としている。
ミドルウェアというソフトウェア:車載OS開発競争
2022年5月6日 | インサイト | AutoTechInsight 今月の分析
基本的なコックピット機能から安全機能やパワートレイン制御システムまで、自動車のほぼすべての要素がソフトウェアに支えられている。車載ソフトウェアアーキテクチャと機能開発の進歩によって、自動車メーカーは新たな収益源を見つけ、以前なら時代遅れになっていた可能性のある部品から収益を生み出している。新たなソフトウェア定義車ビジネスの目標達成に向け、業界は先進運転支援システムと自動運転、デジタルスクリーン、コネクティビティ、先進サスペンションシステム、電気部品などがもたらすハードウェアの増加を抑制する責務を負ってきた。これまでは分散型電気/電子(E/E)車載システムアーキテクチャを搭載した分散型電子制御ユニット(ECU)がほぼ不可避だったが、高性能コンピューティング(HPC)の出現によって、このハードウェアの複雑化トレンドの逆転が見込まれている。業界が分散型E/Eアーキテクチャから集中型制御環境へと移行していくなかで、2つの要素が将来の成功に影響を及ぼす。ミドルウェアの役割とシステム統合の役割である。
ミドルウェアと中間にあるプラットフォームはソフトウェア定義車における最も重要な原則の1つであり、システム統合をより適切に制御するためのカギとなる。オペレーティングシステム(OS)に接続される必要があるのは、車両のソフトウェアアプリケーションとハードウェアコンポーネントの連結装置としてのミドルウェアだけである。中間プラットフォームは、単一のECUまたは単一の仮想マシンだけでなく車両ネットワーク全体を抽象化することによって、車両のソフトウェアライフサイクルを制御する役割を果たす。
業界は(少なくとも車両機能の一部の)ソフトウェア標準化に取り組んでおり、ECU機能の多くは、共通のベースと標準を備えた単一のドメインコントローラまたはHPCに統合される。自動車メーカーはOSとミドルウェアを別々に調達しているが、それらはAUTOSARなどの共通のベース、インターフェース、標準に従う。規模の経済を活用して異なる車両ドメイン間で同じOSおよびミドルウェア技術を利用し、車両内のドメイン間で標準のミドルウェア層を利用するという考え方である。ソフトウェアプラットフォームは今後、整合性のある車両機能を抽象化した統合ミドルウェア層へと移行していく。つまり、車両全体または車両の少なくとも大部分で、OSタイプの同じミドルウェアを利用する。狙いは、自動車メーカーがシステム概念と通信
プロセスを標準化できるよう、共通の抽象化を実現することである。
車両全体機能と安全面の改善に対処できるソフトウェアプラットフォームを開発する必要性は、市場の評価からも明らかだ。さらにTeslaへの羨望は伝統的な自動車メーカー各社の間を駆け巡っている。Teslaはすでにすべての車両ドメインと機能に対応する単一の車載OSをゼロから構築している。自社製ソフトウェアプラットフォームを使用すれば、セキュリティの脅威に対する保護を強化し、性能や機能を分配し、どの自動車メーカーよりも早く、新しく革新的なアプリケーションを展開することができる。別の角度から見ると、たとえ高い志があろうとも、すべての自動車メーカーがVW、Daimler、トヨタのようなソフトウェア内製リソースや台数規模を持っているわけではなく、Teslaのようなリソース能力も持っているわけでもないことを、自動車部品サプライヤー各社は十分に認識している。複数のコンソーシアム主導オープンミドルウェアフレームワークが今後、多くの自動車メーカー向けのオープンソースソフトウェアプラットフォームとカスタマイズソフトウェアプラットフォームの融合に貢献する可能性がある。当社サプライチェーンおよびテクノロジー(SCT)部門は、AutoTechInsightプラットフォームですべてのソフトウェア開発を追跡対象として車載ソフトウェアの予測およびデータ分析サービスを提供している。これは制御ソフトウェア、ミドルウェアソフトウェア、組み込みソフトウェアのコスト予測のための詳細なインサイト、背景データ、解析の追加サービスである。
米国運輸省、モデルイヤー2024-2026年向け
新CAFÉ基準を発表
2022年4月4日 | ニュース | 政策および規制
米国運輸省(DOT)道路交通安全局(NHTSA)は、1ガロンあたりの走行距離(mpg)の延伸、運輸排出量の削減、消費者の支出軽減を目的とした新たな燃費基準を発表した。新たな企業平均燃費基準(CAFÉ)は2026年モデルの乗用車と小型トラックのフリート平均燃費を業界全体で約49 mpgとするよう求めており、米国でこれまでに実施されたなかで最も厳しい燃費基準と見なされている。

政府文書によると、この新基準によって、モデルイヤー2024-2025年で年間8%、同2026年で年間10%、燃費が向上するという。「フリート平均走行距離はモデルイヤー2021年と比べ、2026年には1ガロンあたり約10マイル延伸すると推定される」と公式文書は述べており、モデルイヤー2024-2026年の新CAFÉ基準は、従来基準を継続した場合と比較すると、2050年までに2,000億ガロン以上の燃料使用を削減する効果があるという。
Pete Buttigieg米国運輸長官は、新基準によって燃料補給が必要になるまでに運転できる距離が伸び、米国世帯にとっては年間数百ドルの節約となると述べている。同長官はさらに「この改善は世界的な石油価格変動に対する米国の脆弱性を緩和することにもなり、25億トンの炭素排出量削減によって地域社会を守ることにもつながる」と述べている。
重要ポイント:米国運輸省が発行した1,200ページの指令によると、新CAFÉ基準によって2026年までのメーカーCAFE要件平均はノーアクション代替案( 2020年発行のベースライン基準)での約40mpgから約49mpgに延伸するとNHTSAは推定している。「乗用車の場合、2026年平均は59 mpgをわずかに超え、小型トラックの場合は42mpgをわずかに超えると推定される。ノーアクション代替案の下では、前者は47mpg、後者は34mpgである」(同54ページ)。新CAFÉ基準に関する発表は、自動車からの全体的排出量の削減を目的としたバイデン大統領の大統領令に続くものである。また自動車メーカー各社がゼロエミッション車(ZEV)製造に向けて生産工場とサプライチェーンを急速に変革している時期とも重なっている。燃費基準が厳格化することで、自動車メーカーはガソリン車とディーゼル車の燃費向上をさらに推進することになるだろう。新基準は温室効果ガス(GHG)排出量と大気汚染の削減にも貢献し、米国政府の文書によると、強力な燃費基準は同国のエネルギー自立を強化し化石燃料への依存緩和にも貢献するという。米国で2026年購入の新車は2021年のものに比べると1ガロンあたりの走行距離が33%長くなる、と同文書は述べている。
自動車UI/UX技術-スタートアップ企業が市場をけん引
2022年4月4日 | インサイト | AutotechInsight
自動運転モビリティ、Eモビリティ、コネクティビティなど、新たなテクノロジーによる進歩が著しい。コロナ禍で企業のキャッシュフローは損なわれたが、2021年に実施した当社の調査では、企業の自動車関連研究開発費は平均6.5%増加しており、45%がソフトウェアとソフトウェア関連機能の開発に研究開発予算を費やしていることが明らかになった。ソフトウェアに重点を置く製品への移行にともなって開発企業の数も増加しており、ここ数年で多数のスタートアップ企業が出現している。本稿では、自動車UI/UX技術に重点を置く主要スタートアップ企業を分析する。

Raythink Technology:Shenzhenを拠点としており、自動車用拡張現実ヘッドアップディスプレイ(AR-HUD)アプリケーションを開発している。同社製品のTri-Lane AR-HUDとMono-Lane Plus AR-HUDは正確な車線ポジショニングを支援、車線レベルナビゲーション、前方衝突警告(FCW)、歩行者衝突警告(PCW)、車線逸脱警告(LDW)などの情報をフロントガラスに表示する。Qianha:i FOF、Weed Ventures、さらに既存の投資家であるOriental Fortune Capitalが同社に出資している。特許技術のOpticalCoreは23°x 5°の広視野(FOV)を実現する。
Envisics:2018年設立のEnvisicsは、AR-HUDで使用されるホログラフィックテクノロジーを専門としている。英国を拠点とするスタートアップで、光を使用してHUD画像を作成するDynamic Holography Platformを開発した。自社製品は従来のHUDよりも40%小さく、エネルギー効率が50%高いと主張している。同社の投資家であるHyundai Mobis、GM Ventures、SAICはいずれもEnvisicsとAR-HUDを共同開発している。2021年1月、Envisicsはパナソニックオートモーティブシステムズと提携、次世代HUDの開発と商品化を目指している。
Wayray:WayRayはHUDで使用されるホログラフィック拡張現実(AR)テクノロジーを専門としており、ホログラフィック光学システムとハードウェアおよびソフトウェア開発キット(SDK)を生産している。自動車メーカーのパートナーにはHyundaiとPorscheが含まれており、AR-HUDテクノロジー開発でKarma Automotiveとも提携している。WayrayのDeep Reality Displayテクノロジーは仮想画像のさまざまな部分をさまざまな距離で表示することができる。同社はAlibaba、Hyundai、Porscheなどからこれまでに2億ドル近くを調達している。
Phiar Technologies:GoogleのAndroid Automotive Platformsの元グローバルヘッドであるGene Karshenboym氏が率いるPhiarは、リアルタイムのインテリジェントナビゲーション、スマートパーキング、HDマッピングに同社の空間AIエンジンおよびモビリティARエンジンを使用している。Phiarはパナソニックオートモーティブとの提携による車載ディスプレイとフロントガラスHUDやモバイル機器を提供している。同社の軽量空間AIは、物体トラッキング、車線セグメンテーション、奥行き知覚、地表面推定に使用される。Phiarは2022年1月にQualcommと、インテリジェントAR-HUDナビゲーションおよび状況認識モジュールの開発に向けて提携した。
Holoride:HolorideはAudiとPorscheを自動車メーカー・パートナーとして「後部座席エンターテインメント」に注力してきた。同社はナビゲーションデータを使用して後部座席の乗員のための仮想体験を作成している。HolorideはAudi用にVRヘッドセットを開発しており、このVRは車のフロントガラスと窓をゲーム画面に変える。同社はまた、先進運転支援システム(ADAS)の開発企業であるTerranet ABと提携し、最適な車内体験の創造を支援している。
Canatu:Canatuは、カーボンナノバッドベースのフィルム、タッチセンサー、ヒーターを開発している。柔軟性の高いタッチセンサーのおかげで設計の自由度が高まり、ユーザー体験が向上する。Canatuタッチセンサーは任意の3D形状に形成でき、複数の機械的ボタンやコントロールを置き換える多目的スイッチやスライダーの作成に使用される。Canatuは、Daimler、デンソー、Faurecia、3M、TS Techなど、OEMやサプライヤーとの提携関係を複数結んでいる。
Cambridge Touch Technologies:約2,000万ドルを調達したスタートアップ企業で、特許取得済みのUltra Touchロケーションおよびフォースセンシングソリューションをスマートデバイスおよびサーフェス向けに開発、商品化している。自動車分野における同社の主要パートナーには、日本のタッチパネル企業である双葉電子工業が含まれている。
Tapkey:オーストリアを拠点とするTapkeyは、特にキーレスエントリーに重点を置いた車両アクセスシステムを開発している。Tapkeyはモバイルアクセス制御用のオープンプラットフォームである。Bluetooth Low Energy(BLE)と近距離無線通信(NFC)テクノロジーを使用しているが、同社が超広帯域テクノロジーを製品に統合するかどうかはまだわかっていない。同社の特許技術は、機密データ用の委任認証や暗号化トンネルなど、複数のセキュリティレイヤーを使用している。Garminとも提携し、車のロック解除用のスマートウォッチを開発している。TapkeyはWitte AutomotiveやNXPとも提携している。
Kardome:Kardomeは音声制御ソリューションを開発している。その音声ユーザーインターフェイステクノロジーはロケーションに基づいて音声信号を収集し、クリアでリアルタイムの音声入力と出力をあらゆる環境で実現する。Kardomeによると、同社のソース分離ソフトウェアは、方向ベースのテクノロジーとは対照的に、個々の音声を分離することが可能で、これによって車両内の複数の人がデバイスに明確な指示を与えることができる。2020年、同社はイノベーションラボでRenault-Nissan-Mitsubishiアライアンスがスマートオーディオソリューションをテストすると発表した。HyundaiはKardomeのシードラウンド中に非公開投資を行っている。
トレンド
AR-HUD需要が高まっている。当社アナリストチームは、AR-HUDの世界需要が2030年までに470万台を超えると予測しているが、生産車への導入は2020年に始まったばかりだ。この分野では複数のスタートアップ企業が活動しており、出資するOEMの数も増えている(一部は投資ファンドを通じて)。Audi、GM、SAIC、Hyundaiといった自動車メーカーがすでにこの分野に足を踏み入れており、今後10年間で自動車用ソフトウェアへの投資が急増すると予測されていることから、AR-HUDテクノロジーへの注目度も非常に大きくなると見られる。自動運転モビリティ、特にレベル2とレベル3の成長も、AR-HUDの開発と商品化を後押しする可能性がある。ここでカギとなる要素が、安全性と運転支援機能の重要性である。AR-HUDはドライバーによる道路の監視、状況認識、安全運転の促進に貢献する。デジタルエントリーシステムも成長の準備が整っており、この分野でスタートアップ企業を目にするのも当然のことである。Apple、BMW、General Motors、ホンダ、Hyundai、LG、NXP、パナソニック、Samsung、Volkswagenなどの自動車企業やテック企業がCar Connectivity Consortium(CCC)の下、デジタルカーキーの標準化を検討している。乗員体験に重点が置かれることで、ゲームなどバーチャルリアリティアプリケーションの利用率が高くなっていく。車載ゲームを提供するOEMの増加にともない、Holorideのようなスタートアップ企業が最前線に躍り出ることになる。自動車メーカー各社はすでにソフトウェアベース製品向けに数十億ドル単位を確保しているため、今後は提携だけでなく、自動車メーカーやティア1サプライヤーがスタートアップ企業を買収する可能性もある。
Arnab Paul(調査アナリスト)
ウクライナ紛争の影響下でも成長する自動車ソフトウェア
2022年3月24日 | インサイト |
ウクライナでの紛争は主要コンポーネントや材料のサプライチェーンを混乱させるだけでなく、自動車セクターにサービスを提供するソフトウェア企業にも影響を及ぼしている。事実、複数の自動車ソフトウェア企業がウクライナに拠点とソフトウェア開発者を配置している。
自動車メーカーとソフトウェア会社は短期的な緊急時対応・復旧計画を検討している。混乱と遅延の最小化には人材の再配置が実行可能な選択肢で、ソフトウェア開発企業はこのプロセスを積極的に支持している。同地域の国々は熟練労働者の移住の恩恵を受ける準備ができている。ポーランドは自動車ソフトウェア開発者にとってのハブであることから、こうした恩恵の享受に最も適した国の1つである。
ICEからEVプラットフォームへの移行により、含まれる半導体の量が増え、全体的にイノベーションのグレードが高くなり、これが自動車ソフトウェアソリューション需要の加速をもたらす。事実、ロシアに対して厳格な制裁措置が講じられているなかでも、世界の一部地域ではソフトウェア機能の開発に今後、商機があると考えている企業もある。

ロシアとウクライナの紛争は、部品、原材料、エネルギー、物流など各方面で、欧州の自動車産業に最も痛手を与えているようだ。

S&P Global Mobilityのアナリスト陣は、この紛争下のソフトウェア開発の現状と今後の可能性を分析し、この危機が変革の原動力になる可能性があると予測している。ロシア、中国本土、およびソフトウェア開発のアウトソーシングが発生する傾向が強いインドなど他の国々の間で、パートナーシップやコラボレーションが実施される可能性がある。同時に、Kasperskyなどロシアを拠点とするソフトウェア企業やサイバーセキュリティ企業は出身国以外で市場シェアを失うリスクがある。こうした企業の製品はすでに米国で禁止されており、多くの欧州諸国が同様の措置を検討している。ロシアのサイバーセキュリティ企業がサイバー攻撃の促進に利用される可能性が懸念されているからだ。ロシアに対する制裁は紛争のごく初期段階から展開されているが、こうした制限がすぐに解除されるとは予想されていない。
現在の問題は、新たな車両プラットフォーム用のソフトウェアの設計段階で標準化アプローチを適用することが緊急に必要であることを浮き彫りにしている。この観点から、Automotive Open System Architecture(AUTOSAR)のパラダイムの利点は否定できず、緊急時にはそれがより顕在化している。
データ駆動型サービス、OEMの収益源をけん引
2022年3月14日 | インサイト | AutotechInsight
業界のソフトウェア主導化が進むにつれ、コネクティッドカーと自動運転の成長と電動化への移行やサプライチェーン全体の変化が進行し、スタートアップを含む多くの企業がデータを推進要因とする製品やサービスに焦点を絞っている。S&P Global Mobilityでは、2020年にはコネクティッドカーの世界出荷台数が5,200万台近くになり、その数は2027年までに年平均成長率(CAGR)7%で増加し8,200万台を超えると予測している。
ユースケース
コネクティッド・モビリティへの移行により、音声アシスタント、車載コマース、位置情報サービスなど、ドライバーや乗員にパーソナライズされた便利な機能が提供されるようになった。自動車メーカーとテクノロジー企業はデータを顧客の嗜好判断に活用している。
位置情報サービスは、駐車場の探索だけでなく駐車料金の支払いも含んだ駐車サービスを提供するParkopediaなどの独立サードパーティにも普及している。ChargePointは電気自動車(EV)の充電サービスを提供しており、このサービスには車両の充電ステータスの読み取りや、充電ステーションの場所と行き方の情報提供を含めている。位置情報サービスはユーザーにとって非常に便利であり、加入者ベースは2026年には3,000万近くにまで成長する可能性がある。
車載コマースは自動車エコシステムにとって重要な収益源であり、このセグメントは急速に成長している。S&P Global Mobilityは、車載コマースの利用者が2026年までにCAGR 40%超で約1,900万人に成長すると予測している。HEREなどの企業は、駐車場、ナビゲーション、気象情報などさまざまなサービスを含むHERE Marketplaceのようなソリューションを提供している。HERE Marketplaceは、INRIX、Apcoa、AccuWeatherなどのさまざまな企業とのパートナーシップを通じて提供され、便利な車載ソリューションを顧客に提供する。そのパートナーの1つが、匿名のモビリティデータを提供するLifesightである。このデータは、オーディエンスのプロファイリングと分類、小売サイトの選択と最適化、競合ベンチマーク、都市モビリティ計画など、ユースケース対応に活用できるモビリティパターンについてのインサイトを提供する。
利用ベース保険(UBI)は、ドライバーの運転習慣から収集されたデータによって推進される重要なソリューションである。走行距離、追跡、運転行動の監視などのコネクティッドカーデータを使用して、従量制や運転行動制などのUBI製品を提供できる。速度、ブレーキ、ステアリング、加速度などのデータが運転行動予測に使用される。UBIは、保険会社がリスクを正確に評価し、価格設定モデルを開発するのに役立つ。ArityやLexisNexis Risk Solutionsなどの企業が安全なUBIプログラムを提供している。ArityはFordのパートナーで、三菱はLexisNexis Risk Solutionsと提携している。自動車メーカーも独自のUBIサービスを提供している。Teslaは現在、米国の5つの州でUBIを提供しており、General Motors(GM)は昨年、同社のOnStar保険の2030年収益目標を60億米ドルに設定した。
交通、安全、危険に関する情報はデータ駆動型サービスのもう1つの柱である。車両から収集されたデータは、滑りやすい道路や封鎖された道路など、交通や危険な道路状況を判断するために使用される。Audiは昨年、高精度の群衆データを使用した迅速な警告アラートの発行を目指し、スウェーデン企業のNIRA Dynamicsと提携した。Audiは横滑り防止装置(ESC)の作動、雨センサーおよび光センサー、フロントガラスのワイパー、ヘッドライト、緊急通報、エアバッグトリガーなどのローカルハザード情報データを分析する。
データ管理企業
自動車データ管理企業の最大手として、Mojio、Wejo、Otonomoが挙げられる。Mojioはテレマティクスソリューション、データ分析、インテリジェンスを提供するデータ・ソリューションプロバイダーであり、位置や走行距離などの車両データを収集し、人工知能を使用してクライアントに詳細分析を提供する。同社はこれまでにAmazon Alexa Fund、T-Mobile、Bosch、Relay Ventures、Deutsche Telekom Capital Partnersなどから資金を調達してきた。同社のパートナーはBosch、Audi、AT&T、T-Mobileなどである。
Otonomo Technologiesは、コネクティッドカーデータのマーケットプレイスを提供する。このプラットフォームは自動車データを処理し、会計、請求、セキュリティ、市場管理、プライバシー保護、規制順守、データ匿名化に対応する。同社のパートナーはAudi、Daimler、三菱、Stellantis、BMWなどである。OtonomoのAutomotive Data Servicesプラットフォームは、複数ソースからの自動車データを集約および正規化し、データセットとインサイトを提供する。ユースケースには、トラフィック管理とロケーションインテリジェンスが含まれる。同社は昨年、特別買収会社(SPAC)の合併の一環としてNASDAQに上場した。
Wejoは、自動車データ交換プラットフォームを通じて、自動車メーカー、保険会社、サービスプロバイダーにインサイトを提供する。NASDAQに上場しており、パートナーにはDaimler、HELLA、Microsoft、Iteris、Palantirなどが含まれる。Wejoのデータベース製品にはライブトラフィックとトラフィックインテリジェンスが含まれ、スピード違反とブレーキングのパターン解読に貢献する。同社は今年初めにWejo Neural Edgeを発表した。これは、自動運転車、EV、商用車のデータを分析後、重要情報のみをクラウドに送信するものである。
市場範囲
ユースケースの多様性を考えれば、自動車データの収益化機会は膨大だ。コネクティッドエコシステムへの移行により、自動車企業は顧客の好みを容易に入手・分析し、インサイトを提供することができる。
Stellantis、Volkswagen、GMなどの自動車メーカーは、今後5〜10年間でソフトウェアビジネスを成長させるために数十億ドル規模の予算を割り当てている。データ管理のスタートアップ企業が成長し、自動車メーカーや規模の大きい企業に買収される可能性もある。データインサイトの検証は、顧客向けサービス強化のための無線(OTA)更新の使用によって示される。重要ポイントの1つは規制である。データフローが多い場合、適切な規制がなければセキュリティとプライバシーの問題が発生する可能性がある。車両データと個人データの間の境界線は微妙だ。公正な市場慣行を規制化し独占を回避するには、車両データの第三者への提供が不可欠である。EUの2018/858規則には、自動車メーカーがどのタイプの車両データを利用可能にするかに関する具体的要件が含まれている。
ロシアとウクライナ、自動車産業への影響
2022年3月17日-AutoIntelligence | 戦略レポート
Ian Fletcher, Principal Analyst
Tim Urquhart, Senior Analyst
2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻は、人類の悲劇であり、すでに世界経済に深刻な影響を及ぼしている。石油とガスの価格高騰は生活コストに影響を及ぼし、米国、EU、英国、カナダはロシアに対して企業および個人向けの大規模国際決済システムであるSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除を含む、前例のない規模の経済制裁措置を発動した。紛争の結果として、またロシアを経済的に孤立させる制裁体制の結果として、自動車生産に直接的な影響が及ぶことはもはや避けようがない。
ロシアとウクライナの紛争を背景に、S&P Global Mobility(旧IHS Markit)は2022年と2023年の世界ライトビークル生産予測をそれぞれ約260万台、下方修正した。3月の予測ラウンド後、世界ライトビークル生産台数は2022年に8,140万台、2023年には8,850万台への到達が予測されている。グローバル生産予測担当エグゼクティブディレクターであるMark Fulthorpeは「3月予測では2022年と2023年の見通しからそれぞれ260万台を削減したが、下振れリスクは大きい。コンティンジェンシー(不測の事態)シナリオでは、今年と来年の予測値から最大400万台削減の可能性がある」と述べている。 2022年予測では欧州生産だけで170万台を削減したが、これはロシアとウクライナで失われた100万台を少し下回る需要が含まれている。残りの削減の要因は半導体供給問題の悪化とウクライナから調達されるワイヤーハーネスやその他のコンポーネントのロスであり、どちらも他市場の生産に影響を及ぼす。さらにロシアのパラジウム供給が失われることは、業界最大の供給制約となり得るリスクである。現在から2030年までのライトビークル生産予測からは、これまでに計約2,500万台が削減されている。
欧州に次いで予測更新の影響が最も大きい地域は、北米である。北米のライトビークル生産予測からは、2022年に48万台、2023年に54万9,000台の削減となった。ロシアとウクライナの紛争のなか、北米ライトビークル生産に関する3月の予測更新では紛争とその後の制裁が2022年後半の半導体生産に影響を与える可能性により、事実上すべての自動車メーカーに及ぶ広い範囲の削減が考慮されている。さらに、サプライチェーン、労働、物流の長引く課題が依然、重要な懸念事項として残る。
繰延需要が減少、サプライチェーンが依然として制約要因
ロシアがウクライナに侵攻する以前、グローバル自動車産業では能力に制約のある状況が1年以上続いた。ロシアによるウクライナ侵攻前には、グローバルな繰延需要は今年到達可能なライトビークル生産を最大1,000万台(12%)上回っていると推定されていた。ライトビークル販売は2022年と2023年に減少が予測されていたが、これは繰延需要のロスよりも生産のロスに関連するものと考えられていた。しかしウクライナでの紛争によって(石油と原材料の価格高騰、株式市場の低迷、金利の引き締めなどのせいで)経済に対する信頼が損なわれ、潜在する繰延需要も弱まっている。未達需要は約3分の1削減されたと見られるが、それでもかなりの繰延需要が残るだろう。
マクロ経済の懸念は重大だが、サプライチェーン(と潜在ではない消費者需要)が、中期的に自動車販売台数の上限を設定する要因となる状況が続く。ウクライナ侵攻以降の生産レベルを圧迫する主な逼迫ポイントは、半導体材料の供給(具体的にはウクライナのネオンとロシアのパラジウム)と、電気配線ハーネスの調達という、2大カテゴリーに分けられる。
専門材料供給の問題が半導体の回復を削ぐ可能性も
半導体供給の課題は2つの面で悪化している。1つは、ネオンガス供給の混乱拡大である。半導体産業向け高純度ネオン供給のほぼ半分をウクライナのサプライヤーがコントロールしているが、半導体産業はマイクロチップにパターンをエッチングするレーザーにこの元素を使用している。当社の初期調査によると、半導体メーカーはネオンガス在庫を十分保有していることから当面のリスクは低いと見られるが、この問題は目に見えにくいことに留意したい。2つ目の課題は、半導体のメッキと仕上げに使用されるパラジウムの供給である。さらに加わったネガティブな展開は、中国の新型コロナウイルス感染症例数が2年ぶりの高水準に到達し、ShenzhenとChangchunを含む北東部の製造拠点での検疫と工場閉鎖をもたらしたことである。こうした問題はすべて、マイクロチップの「立ち往生」によるロス・リスクを高める。つまり、「右ハンドル」車用の半導体が他の制約のせいで製造できないのである。
ウクライナ製ワイヤーハーネスは代替が困難
当社の調査によると、ウクライナ製ワイヤーハーネスは、侵攻前には約50万台から100万台の自動車用に利用されていた可能性が高い。これらのハーネスは手作業による複雑なケーブルのアセンブリを構成する。デュアルソーシングの手配もいくつか存在するものの、欧州とその周辺ではすでにハーネス能力が制限されており、切り替えは困難だ。状況がすぐに解決されない場合、マシンの待ち時間と数ヵ月を要する人員のトレーニングのため、生産移転には3〜10ヵ月かかると推定される。通常、ウクライナ製ワイヤーハーネスのほぼ半分(45%)がドイツとポーランドに輸出されているため、ドイツ系自動車メーカーに対する影響が大きい。ただしこれはいったん立ち上がれば、失われた生産は2022年後半以降に急速に回復する可能性があることが挙げられる。
パラジウム:次の潜在的課題
いまのところ確率は低いが、パラジウムが業界最大の供給制約要因になる可能性もある。米国地質調査所によると、世界で採掘されるパラジウムの40%がロシア産である。パラジウムの約3分の2は自動車用途で、排気ガス後処理用の触媒コンバータの活性元素として使用されている。ロシアのパラジウム供給が(西側のボイコットまたはロシア側の供給停止によって)突然中断された場合、これらの供給材料を使用するすべての自動車(ハイブリッドを含む)の生産が停止する可能性がある。プラチナは代替要素だが、同じく高価であり、主にロシアを調達源としている。設計変更には規制の再承認が必要となるが、これには数ヵ月を要しコストもかかることから、あらゆる種類の代替品が規制面で潜在的な危険をはらんでいる。ただし、現時点の予測ではパラジウム供給の大きな混乱は考慮していない。
西欧の複数の自動車メーカー、特にウクライナのLeoniの工場からワイヤーハーネスを調達しているドイツ系自動車メーカーが影響を受けている。Volkswagen(VW)Passenger Carsブランドは、Zwickau、Dresden、Emden、Hannoverの各工場の操業停止をすでに発表している。Porsche、Audi、BMW、Mercedes-Benzもそれぞれ、ワイヤーハーネスの問題によって製品に混乱が生じることを発表している。
天然ガスのコストは紛争の結果として必然的に上昇している。欧州は供給をロシアに依存していることから、このコスト上昇の影響をまともに受けることになり、価格面で家計に直接打撃を与えるだろう。天然ガス費用のさらなる上昇は、同地域の業界、特に自動車セクターのようなエネルギーに敏感な材料に依存している業界にも打撃を与えることにもなりそうだ。この追加コストは価格引き上げという形で顧客に転嫁され、自動車需要が弱まる可能性もある。鉄鋼、アルミニウム、ニッケルなどの他の投入コストも急上昇に向かおうとしている。
ロシアの自動車市場自体も、顕著な混乱期を迎えている。米国、EU、英国、カナダによって課せられた経済制裁は、これまでに課された中で最も厳しく、複数のグローバル自動車メーカーがロシアへの自動車輸出を完全に停止し、生産も停止した。VW、日産、トヨタがこのカテゴリーに分類される。Fordにも、現地メーカーであるSollarsとの小型商用車の合弁事業(JV)の停止という影響が直ちに見られた。ロシアで販売台数第2位の自動車グループであるHyundaiはロシア国内工場でのHyundaiとKiaの生産を停止したが、再開予定日は発表されていない。販売面で最大の自動車ブランドは国内チャンピオンであるLadaで、親会社のAvtoVAZが生産停止を発表したが、それまでの停止要因である半導体不足をその理由に挙げているが、制裁措置の影響を受ける可能性もある。Volvo、Jaguar Land Rover、Bentley、Ferrari、Lamborghini、Porsche、Aston Martinなど、その他の多くの高級自動車メーカーも輸出停止を発表した。
ウクライナの自動車市場は紛争によって大きなダメージを受けるだろう。Renault GroupはAvtoVAZの株式を過半数所有しており、ロシア市場へのコミットメントでも大きな結び付きがある。3月14日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて同業他社が講じた措置に反して、同社はロシア事業の放棄を躊躇していると報じられた。資産が国有化されるかもしれないという脅威によって、同グループの現地事業からの撤退には高コストがともなう懸念がある。フランス政府が支持しているとの主張をよそに、この立場が維持できるかどうか、現在の状況ではまだ不明である。
ウクライナ紛争が中型&大型商用車に与える影響
Andrej Divis, Executive Director, Global Truck Research
Ewa Root, Associate Director, Global Truck Research
Christiane Stein, Associate Director, Global Truck Research
Miki Sasaki, Associate Director, Global Truck Research
戦闘が急激に拡大してから2週間が経過したが、ウクライナでの戦争が世界のトラック市場に与える影響はいまだ明らかな状況とはほど遠い。とはいえ、重要かつ潜在的な影響伝搬のメカニズムはおおよそ明らかになりつつあり、これは短期的にある程度予測可能な形で市場に影響を与えると見られるものや、より不確実かつ潜在的に長期的影響を及ぼすものもある。外国系自動車メーカーはロシア展開を見直しており、ロシア系トラックメーカーを含む欧州の自動車メーカーは、計画していた部品とシステム納入の中断に直面している。
全般的に、ロシアとウクライナの経済と、世界のその他地域との間の貿易と金融のつながりは、制裁にともなってダメージを受けることが予想される。次に、貿易の混乱が世界の大部分の地域で経済生産と貨物輸送の短期的減少につながる可能性がある。信頼感に対する影響は不明だが、この動きを悪化させる可能性もあるだろう。危機の深刻度と期間についてはさらなる疑問がある。こうした要因がトラック市場の見通しが単なる調整なのか、市場の方向性の完全な逆転なのかを決定する。貨物への影響はさまざまな方向から発生し、多少異なる時間軸にしたがって到来する。
ロシアの事業体に対する制裁が打撃を与え、戦争によって国境での物資の流れが混乱することから、ロシアとウクライナが関わる輸出入はただちに急落するだろう。これは何よりもまず欧州に影響を与える。並行して、天然ガスと原油の輸出国としてのロシアの重要性によって、ロシアの通貨安と世界のエネルギーコスト上昇が世界のインフレ水準を上昇させ、個人消費のブレーキとして機能し、家計収入を圧迫し、商品と商品配送に対する裁量支出の削減につながる。金利への影響はどちらの方向にも進む可能性が主張されるだろうが、現段階では、金利に対する反射的なリアクションは予想されていない。最後に、エネルギー部門以外の特定産業のグローバルサプライチェーンにおけるロシアとウクライナの独自ポジションが、両国の経済規模に単純に比例しない供給混乱をもたらす可能性がある。S&P Global(旧IHS Markit)は、触媒コンバータ用パラジウムの供給源としてのロシアの重要性をすでに指摘している。そのほか、肥料、穀物、特定の産業ガスなど、例を挙げればきりがない。
トラック需要への直接的影響は、何よりもまず欧州で顕在化するだろう。ウクライナ-ロシア戦争は両国だけでなく、同地域内の大型商用車市場に影響を与えると予想されている。ロシアから東欧以外に輸出される新車トラックの台数規模は現地生産の約5%と少なく、一方のウクライナは大型商用車を生産していない。しかしながら危機の結果として深刻化が予想されるサプライチェーンの混乱は、必然的に新車トラックの納入に影響を与えるだろう。ウクライナは多くの部品サプライヤーにとって欧州の主要ハブであり、現在の危機はワイヤーハーネスを含む多くの重要部品の供給を著しく混乱させ、欧州系自動車メーカーにとって大きな圧力となるだろう。エネルギーと原材料の価格高騰はトラック価格の上昇につながる。
物流企業は、インフレ上昇と燃料価格高騰、そしておそらくロシアかウクライナ出身のドライバー人員の不足に起因するオペレーションコスト高騰に見舞われるだろう。両国との関係から、欧州市場が最も大きな影響を受けると考えられる。独立国家共同体(CIS)の貨物会社はロシアの成長に大きく依存しているため、経済減速の打撃を受けるだろう。またロシアブランドのトラック生産の平均約20〜25%を輸入していることから、新車トラックの納入も中断することになる。西側諸国がロシアとベラルーシに対して発動した経済制裁は、両国の物流企業の国際的活動を困難にし、凍結させるだろう。こうした状況が欧州の他地域にも新たな課題をもたらし、紛争コストは同地域の多くの貨物会社にとって負担になる。ロシアの侵攻行為により、世界中の多くの企業が同国との関係を断ち切り、事業を他の場所に移転した。
これがロシアの物流企業に莫大なコスト負担をもたらすとともに、国内では店舗や工場が閉鎖され、配送サービス需要は枯渇し始める。世界中の企業がロシアとの関係を放棄することから、輸出機会も影響を受ける。さらにルーブルの下落、貸付へのアクセス制限、高金利といった問題が、国内貨物会社が抱えているトラブルに上乗せされる。ロシアには多くの西欧およびアジアのトラックメーカーが存在し、現地需要の平均15〜20%を供給している。輸入車はトラック販売の約30%を占め、50〜55%がロシアブランドだ。
欧米系自動車メーカーの大多数がロシアでのトラック販売を凍結したことから、この割合はロシアとベラルーシのブランドに有利にシフトしようとしている。しかしKamAZ、GAZ、Ural、MAZが現在の制裁の波を乗り切って新規注文に対応できるかどうかは疑問で、同国に壊滅的な経済的影響が及ぶことを考えれば、いずれにせよほとんどなくなるかもしれない。
戦争が他地域に与える間接的影響の見通しを語るのは時期尚早である。主要経済国の3月の景況感データ発表が最初のヒントになるかもしれない。
生産に関しては、世界第8位のトラック生産国(2021年世界トラック生産の2.4%)として貢献しているロシアには、程度の差はあれ影響がすぐに現れた。西欧系メーカーはロシアへのトラックとスペアパーツの配送を停止した。同じことがこの地域のサプライヤーにも当てはまる。
Daimler TruckはMercedes-Benzと三菱ふそうのトラックの現地生産とKamAZへの供給を停止した。Mercedes-Benz GroupもKamAZの株式15%の売却を検討している。2021年に5,000台以上のトラックを生産したVolvoTrucksも、Kalugaでの生産を停止した。こうした自動車メーカーのトラック生産台数は週200台で推移している。残りの外国系自動車メーカー(欧米、トルコ、日本、韓国)も生産を停止すれば、失われた生産台数は週360台に増えるだろう。MANとScaniaの両ブランドを擁するTraton GroupはSt Petersburgでの製造業務を規則に従って停止した。
KamAZは声明の中で、西側からの供給は中断しているがトラック生産は継続すると述べている。同社はロシアの2021年トラック生産の55%を占めている。状況の変化にともない、KamAZでは、Daimler Truckとともに開発した新たなK5プラットフォーム用のコンポーネントの現地生産拡大に取り組む一方、旧式のK3プラットフォームでの車両生産を増やすよう生産計画を調整する。これはKamAZのトラック生産台数が、以前の1日あたり200〜210台から、1日あたり180台に調整されることも示唆している。K4プラットフォームは年末までに停止される。他の現地メーカーも、モデルラインナップに含まれる外国製比率に基づいて生産台数を調整し、機能水準を下げた製品にシフトしていく。
ウクライナでのトラック生産はすでに停止しており、国内需要向けのバス生産も低水準(週に約9台)だったがこれも停止したものと推測される。
中期的には、特定商品の国際取引の混乱がさらなる材料価格の上昇またはリードタイムの長期化をもたらし始め、それにともなっておそらく欧州だけでなく他地域でも生産がさらに制限されることから、より微妙な影響が前面に出てくる可能性もある。
最後に、パワートレインにも影響があある。ロシアのエンジン生産は世界全体の2%を占める。ロシア製エンジンの89%は国内生産車用で、8%はベラルーシへの輸出車用である。エンジンメーカーとしては、KamAZ、GAZ Group Yaroslavl、ZAO Cummins Kamaの上位3社で全体の96%を占めている。Cumminsは2月28日、KamAZとの関係に関する協議を拒否したが、ロシア事業にある程度の影響が出ると予想している。Daimler TruckはKamAZとのすべての協力を停止し、KamAZとDaimler Truckの関係はエンジンにまで及ぶが、Daimler TruckエンジンはKamAZ車で使用することはできない。KamAZはエンジン戦略の再考を迫られるだろう。エンジン生産への主な影響は、物流の問題と海外メーカーとの関係見直しによるものである。現在の物流の問題から、欧州のエンジン生産への影響も車両同様に懸念されている。
さらに今後、欧州のエネルギー供給問題とそれにともなう価格上昇が、特にディーゼル燃料に現れ、フリートの燃料タイプ選択に影響を与える可能性があると考えられる。当社では現在、この問題の側面を調査している。
中国の感染拡大によりトヨタ、Volkswagen、Foxconnのオペレーションが混乱
2022年3月15日
Source: Getty Images
2022年3月15日のReutersのレポートによると、トヨタ、Volkswagen、Appleの主要サプライヤーであるFoxconnが中国における感染拡大によって操業を停止しいてるという。国家衛生健康委員会(NHC)の3月14日の発表によると、中国本土で合計1,437件の新規感染者が報告されており、うち1,337件が症状をともなう市中感染者だという。Changchun市が封鎖されているため、トヨタはFAW Groupの合弁会社であるChangchun工場の生産を停止した。同様に、VolkswagenとFAW Groupの合弁会社もChangchun工場の生産を停止した。
新規感染者数の急増を受けてShenzhen当局は公共交通機関を一時停止し、全市民を対象に検査を実施、市民には在宅勤務を強く要請している。3月14日にはFoxconnとUnimicron TechnologyがShenzhenでの操業を停止した。Foxconnは通知があるまで操業を停止し、生産への影響を最小限に抑えるためバックアップ工場を配備する、と述べている。
重要ポイント:自動車メーカーや電子企業が半導体不足に直面しているさなかに、新たな感染拡大の波によって世界のサプライチェーンに脅威が加わった。ShenzhenとChangchunの生産拠点に課せられた封鎖は、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。ShenzhenとChangchunを含む中国の複数の都市や省が、ウイルス発生を抑制するという国のゼロコロナ政策にしたがって規制を強化している。
ライトビークル生産と半導体供給問題の最新動向
自動車メーカーは依然として半導体サプライチェーンの問題に直面している。
世界自動車生産ロス: 最終日が3月11日の週現在の推定
2021年第1四半期:1,438,239台(変更なし)
2021年第2四半期:2,597,811台(変更なし)
2021年第3四半期:3,484,978台(変更なし)
2021 年第4四半期:2,059,883台(変更なし)
2022年第1四半期: 896,001台(+66,674台)
2022年第2四半期: 41,941台(+19,870台)
[完全な詳細データは当社予測サービスのクライアント様限定で提供しています。
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2022年第1四半期の最新報告では、半導体の混乱によって失われた自動車生産台数が66,674台増加した。
欧州では16,500台の生産削減となり、BMW、Renault、Stellantisの施設に影響が及んでいる。この数ヵ月間、状況が見えづらかった中国本土ではGeelyとGreat Wallの工場を対象に40,000台の削減が見られた。北米では1,984台が削減され、FordとStellantisの工場に影響が出ている。日本はホンダで今週3,880台削減の可能性がある。ブラジルではトヨタで2,330台のロスとなっている。南アジアではタイのいすゞとマレーシアのPerodua とProtonで1,930台が削減されている。
2022年第1四半期の生産スケジュールに引き続き調整が入っていることに加え、第2四半期でも混乱が報告されている。今週の情報更新では、第2四半期に累積41,941台の生産ロスという影響が示唆されており、前回更新と比較して19,870台増加した。今週の変更はほぼすべて、VolkswagenのWolfsburg工場でのシフト削減を反映したもので、4月と5月のオペレーションに影響が出ると予測されている。
半導体不足をより正しく織り込むように生産スケジュールの調整が進んでいることが指摘されており、自動車メーカー各社からはそれほど劇的な発表は出てこないものと考えられる。変更があまり顕著なものでなくなってくるにしたがい、こうした出来事の報告はあまり目立たなくなっていき、生産スケジュール調整は2021年の大半に報告されたような大きな発表ではなく、どちらかと言うと「少し進んでは止まって」という形で釣り合いを取っていくことになりそうだ。
トヨタが12月にマレーシアを襲った洪水を理由として2月と3月の生産スケジュールの大幅削減を発表したが、こうした発表を踏まえても上記の分析はおおむね合致していると言える。遅れて現れてきたこの波及効果は顕著なもので、サプライチェーンが外部からの衝撃にどれほど敏感かということを改めて示した。新型コロナウイルスのオミクロン株はすでに自動車工場に目に見える混乱をもたらしており、半導体を含むサプライチェーンにも混乱をもたらすと予測される。当社では今週、中国本土の第1四半期の自動車生産がさらに37,000台失われたことを確認したが、これはBYD、FAW、そしてFAWとトヨタおよびVolkswagenとの共同オペレーションに影響を及ぼしたシャットダウンが背景にある。さらにトヨタの主要サプライヤーである企業でシステムが停止したことから、トヨタでは3月1日に同社の国内自動車工場全体で15,700台が失われたことが推定されている。
こうしたリスクは別として、当社では危機と回復の特徴を下記のように捉える見方を維持している。
- 2022年上半期:半導体のリードタイムは安定するが、引き続き26週間以上。注文確定に時間がかかれば、サプライチェーンが数量またはスケジュールへの対応を保証できなくなる。
- 2022年下半期:リードタイムは改善されるが、それでも通常より長く、供給は引き続き需要に遅れをとる。
- 2023年上半期:改善が継続、追加のウエハー製造能力が稼働しリードタイムがさらに改善される。サプライチェーンが現行需要に対応できるようになる。
- 2023年下半期:改善が継続、失われたバックログに対処し、顧客の数量とスケジュールの要求に一貫して対応できるよう、サプライチェーンが前進する。
ウクライナの危機によって、半導体サプライチェーンにさらなるリスクが生じている。半導体ウエハーにエッチング処理を施すレーザーに使用される高純度ネオンガスはウクライナとロシアの調達源に依存していることから、これが懸念材料になる。一方でサプライチェーンに関わる多くの企業が、ガスの在庫量と費用はかかるものの、他の調達源も実行可能であることを考慮し、前向きなコメントを出している。時間がかかり価格も上昇するが、現在の当社の評価では、2021年第1四半期にルネサス那珂第3工場が稼働不能に陥ったときよりも混乱の水準は低いと見ている。
これとは別に、ウクライナの危機がもたらした生産への直接的影響を把握するための追跡タブを週次更新ファイルに設けている。ダウンタイムの長さはまだ判断がつかない状況だが、危機前の工場オペレーションの最良推定値をベースに、混乱が予測される1日あたりの生産台数レベルを提示している。事態はいまだ流動的なことから、絶対的効果を捉えようとするよりもそのほうが有益だと考えられる。
サプライチェーンの混乱:2022年も続く理由
ワシントンDC(2022年1月20日)― 過去30年間、進化し続けてきたグローバル・サプライチェーンシステムは、今やかつてない緊張状態にあり、混乱の解決は「短距離走」ではなく、2022年も続く「マラソン」の様相を呈している。
The Great Supply Chain Disruption:Why it Continues in 2022(サプライチェーンの混乱:2022年も続く理由)というこのレポートは、世界経済の幅広い分野の第一線で活動するIHS Markitエキスパート陣による考察と展望を提供している。(レポート完全版はへ)
「グローバル・サプライチェーンで起きていることは、破壊的であるだけでなく歴史的でもある」とIHS Markitバイスチェアマンであり、本レポートの編集者であるDaniel Yerginは述べている。「インフレも新たな焦点として加わり、2022年以降のサプライチェーンを理解する必要性がますます高まっている」。
混乱と不透明さをもたらしている新型コロナウイルス感染症以外にも、実質能力、物流、労働力といった課題が存在する。
「各業界はサプライチェーンの混乱の根底にある業界固有の課題と環境に取り組んでいる」とIHS Markit海運および貿易担当バイスプレジデントで、本レポートの共同編集者であるPeter Tirschwellは述べている。「統合的な視点のみが、問題を把握し、解決に時間がかかる理由を明らかにする」。
本レポートに収録されたIHS Markitエキスパート陣によるインサイトの一部は以下。
製造- Chris Williamson (IHS Markit チーフビジネスエコノミスト)
2021年には納期の大幅な遅れが見られ、2022年1月には多くの企業が大幅な生産制限を経験した。投入コストをみても、パンデミック以前の10年のどの時点よりも数値が急上昇している。
「30年の実績があるIHS Markit購買担当者指標によると、2021年ほどサプライヤーによる納期が長期化したことはない」とWilliamsonは述べている。「2022年に入って供給不足によって生産が制約されていると報告する企業の数は、長期平均の3.5倍となった」
「こうした圧力の結果として、IHS Markitでは世界経済成長予測を引き下げ、インフレ予測を引き上げた。パンデミックがサプライチェーンに影響を及ぼす期間が長くなればなるほど、成長見通しは弱くなる。2021年中盤には2022年の世界GDP成長率を4.5%と予測していたが、最新の予測は4.2%に引き下げた。これはインフレが想定以上に拡がっていることが主因だ」
「一方、12,000社を対象とした2022年事業展望調査によると、利益期待値はパンデミック期間中で最も弱い水準となっている。価格高騰、供給不足、高価格に対する顧客の抵抗、そして価格上昇後もコストを顧客に転嫁できず利益率が損なわれることへの懸念が広まっている」
コンテナ輸送- Peter Tirschwell(IHS Markit海運および貿易バイスプレジデント)
港湾の混雑によって、船舶、コンテナ、シャーシなどの輸送資産の循環移動は大幅な遅延が続いており、キャパシティ(積載量)は削減され、移動に要する時間は長期化し、輸送料金は高騰を余儀なくされている。
「2022年が始まっても状況は改善されていない。行き詰まり解消の糸口が見えていると言いたいが、率直に言って、そうではない」とTirschwellは述べている。「パンデミック以来繰り返し発生しているこの課題は、次のショックが発生するまでにシステムが回復する時間がないということだ」
「2020年のロックダウン中に、米国の個人消費が旅行、レジャー、エンターテインメントといったサービスから住居リフォームへ、そして実店舗からeコマースへと大きく変動したとき、コンテナ・サプライチェーンは前例のない緊張状態に置かれた。eコマースには配送センターが必要であり、配送センターの能力は準備万端にはほど遠い状態だった。現在も準備は整っていない。5年~7年分のeコマースの成長が1年に圧縮された。さらに、景気刺激策が消費力を高めた結果、たとえば2021年の米国の輸入コンテナ量は、2019年と比べて20%近く増加している。これはパンデミック以前の10年間よりもはるかに高い成長率だ」
「コンテナ・サプライチェーン危機を悪化させているのがキャパシティだ。海運会社と貨物輸送業者は、需要増にも対応できる十分な船舶とコンテナがあると報告しているが、問題はそのキャパシティの多くが遊休状態になっているか循環が遅くなっていることにある。混雑のせいで利用できなくなっているキャパシティは10〜15%と推定されている」
自動車- Matteo Fini(IHS Markit オートモーティブ・サプライチェーンおよびテクノロジー バイスプレジデント)
半導体と電磁鋼の世界的な不足は2022年も継続となり、自動車メーカーは生産制限と、リーン(無駄のない)在庫やジャスト・イン・タイム製造など長年前提としてきた慣行からの脱却を余儀なくされている。
「自動車サプライチェーンの問題は過去に例を見ないものだ。そしてこれがすぐに修正されるかどうかと問われれば、答えはノーだろう」とFiniは述べている。
「これはリーン供給を前提とし在庫をできるだけ少なくする、有名な「トヨタウェイ」に反することを意味する。自動車メーカーは特定部品の在庫のありかたを検討している。OEMにとって1週間あたり5,000万ドル以上のコスト負担となり得るライン停止と比べれば、その在庫保有コストは相対的に見て取るに足らないものだといえる」
エネルギー- Jim Burkhard(IHS Markit 石油市場、エネルギーおよびモビリティ バイスプレジデント)
1年前と比較すると、原油、石炭、天然ガスの価格は大幅に上昇しており、これは景気回復に伴う力強い需要によるものである。一方でこうした価格上昇はインフレと地政学的リスクにつながり、さらなる混乱を引き起こす可能性があるため、その懸念が市場に漂っている。
「欧州とアジアでガスのスポット価格が上昇している理由は単純明快で、需要が強く押し上げられているからだ」とBurkhardは述べている。「2021年第3四半期には需要が世界全体で約9%増加した。これが生産能力を削ぎ落としたことで、短期的には供給が比較的柔軟ではない状況だ。石炭が限界に達してガス需要が押し上げられた。この供給を割り当てる唯一の道筋は、最近見られたように、ガス価格がまったくアンカー(固定)されない状況になることだ」
「石油は液化天然ガスほどではないものの、大幅に上昇している。これは他の多くのセクターで見られたように、2021年に需要が大幅に回復したことがその理由の1つだ。液化天然ガスや石炭は余剰能力にヒットしたものの、石油はそうではなかった。原油生産の余剰能力は1年前と比べて少なく、1日あたり約300万バレル。2022年にOPECプラス協定以外の、米国やその他からの供給に大幅な伸びがない場合、余剰能力はさらに縮小する可能性があり、その場合は石油市場がさらに危機的な傾向を示すだろう」
農業- Tom P. Scott(IHS Markit アグリビジネス・コンサルティング バイスプレジデント)
パンデミックがもたらした食肉包装など労働集約的プロセスにおける労働力不足、およびコンテナ輸送の混乱による農業生産への大規模な影響がコストを押し上げ、農業分野においてもリーン在庫が見直され、自動化が一層重視されている。
「労働供給が逼迫しているということは、交渉力が雇用者側から従業員側へとさらにシフトしていることを意味する」とScottは述べている。「以前から人件費と労働供給の解決策として自動化を検討していなかった場合、パンデミックが自動化を検討するきっかけになっている」 「もう1つ、結果として浮かび上がったのは、ビジネスリーダー世代はこれまで「ジャスト・イン・タイム」型サプライチェーンの構築に注力し、在庫を最小限に抑えてきたということだ。これが100%逆転することはないものの、将来の混乱に対する防御として在庫レベル、より広い意味ではサプライチェーン、および緩衝在庫や回復力の観点から必要なことについて再考が必要とされている」
労働および原材料- John Anton(IHS Markit 価格および購入サービス ディレクター)
2022年、企業が労働力、特に最低賃金水準に属し、感染の危険性が高く、仕事に戻ることを躊躇するサービス労働者に対して、より多くの賃金の支払いを余儀なくされるだろう、とAntonは述べている。
「要するに、2022年には労働にもっと金を払うことになるという、きわめて単純な話だ」とAntonは指摘している。「商品需要が高止まりしているために、労働供給の問題が発生している。米国では2021年第4四半期の商品に対する個人消費は2019年第4四半期と比較して17%増加し、耐久消費財への支出は23%増加した。通常の状態でも、雇用者は需要を満たすためにより多くの労働者を雇わなければならず、労働市場が逼迫した状況下では、雇用者は多くの賃金を支払う必要があることを認識している」
「2022年に考慮すべきもう1つの点はインフレだ。インフレ率の上昇はもはや一時的なものではなく、米国に限られているわけでもない。南北米と欧州のインフレ率上昇は、賃金圧力を増大させるだろう。インフレ予想に基づいて賃金引き上げを要求すれば、インフレを悪化させることになる」
地政学- Nathalie Wlodarczyk(IHS Markit リスク・インテリジェンス・ソリューション バイスプレジデント)
各国政府が戦略的資源をコントロールし、競争上の優位性を確保しようと努めることから、2022年のサプライチェーンでは政治的決定がきわめて重要な役割を果たす。
「サプライチェーンの回復力に認められる長期的課題には、2つの重要な構成要素があり、いずれも最終的にはより体系的なシフトにアンカーされる」とWlodarczykは述べている。「地政学的リスクとして、今後のサプライチェーンに政治的決定がはるかに重要な役割を果たすものと考えられるが、それは特に各国政府が戦略的資源と競争上の優位性確保の方法について決定を下すという点においてだ。エネルギー転換に不可欠な戦略的鉱物およびコンポーネントが重要な焦点となる可能性はあるが、国内の回復力を支えるため、全般的に有利な貿易関係を確保したいという大局的な動きもある」
「気候ストレスと社会およびガバナンスの不安定さによるサプライチェーンへの直接的混乱と、持続可能性の信用向上と企業の評判保護に対する規制、株主、消費者の圧力という、2つの側面も忘れてはならない」
2022年上半期の半導体供給に関するリスク速報
オミクロン株によってフィリピンからの半導体供給が停止?
- フィリピンで新型コロナウィルスの感染数が垂直的に増加していることから政府によるロックダウンの脅威が浮上しており、同国の重要なOSAT(半導体の組み立てとテストを請け負う製造業者)施設が、すでに脆弱な状態にある世界のサプライチェーンから一時的に分断される可能性がでてきた。
- 2021年第3四半期にマレーシアで起こった半導体供給の「バックエンド」のボトルネックが今度はフィリピンで再現され、世界の自動車生産に大きな影響を与える可能性がある。
- 想定される影響はマレーシアよりも小さいと見られるが、製造施設の完全なロックダウンが実施された場合、今後6ヵ月以内に失われる自動車生産は最大140万台になると推定される。
- フィリピン政府は感染数増加を抑制するため複数の規制を制定して厳格なロックダウン実施という事態を回避しようとしている。しかし、広範囲にわたるSinovac製ワクチン接種の有効性が不確かという可能性も示唆されており、オミクロン株による症状は比較的軽いと報告されているものの、入院急増のリスクが高まることもあり得る。
背景
自動車業界の2022年は、楽観的な見通しで始まった。半導体不足に起因すると認められた生産ロスは昨年夏と初秋に比べて大幅に減少し、メーカー各社は2022年初頭に生産スケジュールの強化を示唆し始めていた。しかしながらトヨタが2022年2月生産計画の大幅削減を発表し、現在の半導体サプライチェーンの脆弱性が再び浮き彫りとなっている。この事象は、12月下旬になってマレーシアの半導体最終組み立てユニットに混乱が遅れて生じたことが主な要因であろう。夏季に実施された厳格なロックダウン後の回復は順調だったが、12月後半の大規模な洪水によって物流が中断され、半導体施設を含む製造工場が停止に追い込まれた。今年第1四半期の自動車生産に対し、この影響を受けるOEMがトヨタだけである可能性は低い。
マレーシアにある半導体のテスト、パッケージング、組み立ての施設への外注依存度が非常に高くなっていることが、この6ヵ月で改めて浮き彫りになった。車載用途の半導体供給が非常にタイトであることを考えると、OSAT拠点にまた別の混乱が発生する可能性がもたらすリスクは高くなる。
IHS Markitでは今後数週間でフィリピンにある同様のOSAT施設からの供給が混乱する「可能性」を特に懸念しており、注意深く観察すべきリスク監視項目とすることを提案している。
フィリピンのロックダウン・リスク
フィリピンではここ2週間で新型コロナウィルス感染数が大幅に増加した。1月中旬にオミクロン株の感染事例が保健省から報告され、人口100万人あたりの感染平均は、年初のほんの数例から、300例以上に増加している。これは欧米諸国から見ればまだ低いものの、現在アジアで最も高く、マレーシアが昨年夏に完全なロックダウンの実施を決定した際の基準値をすでに超えている。
2022年1月にNature誌に掲載されたレポートによると、不活化ワクチンは効果が低いという。フィリピンで広く使用されているSinovac社製とSinopharm社製のワクチンはこうした不活化ワクチンである。オミクロン株を前にフィリピンでは欧米と同じ選択肢がとれない可能性を示唆している。
マニラの現地病院での研究では、入院患者の45%がすでにワクチン接種済みという結果が示されている。オミクロン株に対するより強力な防御と広く考えられているブースター接種を受けた人の割合は、本稿執筆時点で人口のわずか5%にとどまっている。
政府は最近、ワクチン未接種者に対する公共交通機関へのアクセス禁止で物議を醸すなど、ワクチン未接種者に対して強力な制約を課すことを余儀なくされている。これらは移動手段に影響を及ぼし、労働力不足をもたらすことも考えられるが、これまでのところ状況は国・地域のロックダウンの手前で止まっており、封じ込め対策が現場の操業を妨げるには至っていない。政府は、本格的なロックダウンを回避すべく努めていると述べている。
現状の最大のリスクは、感染増加が(前述の制約措置にもかかわらず)制御不能の状態が続き、ブースター接種率やワクチン効果によって入院数が急増し始めることである。この場合、政府は完全なロックダウンの実施を余儀なくされるかもしれず、国内の主要な半導体施設を含む製造工場が閉鎖される可能性がある。
半導体への危機的な影響
SEMI WW OSAT製造データベースの2019年10月データによると、フィリピンにはOSATまたは半導体の組み立てとテストの外部委託製造工場が12施設ある。フィリピンは半導体事業を展開している20ヵ国中7位の地位にあり、これはマレーシアには後れを取っているもののシンガポールやタイよりもはるかに進んでいる。特に、AMKOR Technology社はフィリピンの首都圏またはそのすぐ近郊に4設備があり、これは同社が世界に配置している施設数の4分の1を占める。AMKORは世界最大手のOSATサプライヤーの1つであり、テキサス州に本社を置いている。
各施設の具体的な規模や自動車最終市場構成に関する詳細なデータは入手できておらず、そのため、フィリピンの半導体が同国のロックダウンによって稼働停止となった場合に想定される世界の自動車生産ロス概算値の提示となる。昨年のマレーシアでの厳格なロックダウンに起因する自動車生産ロスは約200万台だったと推定されており、これを踏まえると、フィリピンで同程度の期間のロックダウンが実施された場合、約140万台の自動車生産がリスクに曝されることになる。繰り返しになるが、以前のマレーシアの経験を青写真として使用すると、組み立てラインは4〜5週間後退することになり、2022年3月初旬まで組み立てスケジュールに影響が及び、正常化には数ヵ月を要することになる。
幸いなことに、必ずしもチップ製造そのものが中断されるわけではない(バックエンド業務のみ)ことから、ロスの一部は下半期に補われる可能性もあるが、これはその時点の組み立て能力の拡張や労働条件次第である。
ボトムライン
フィリピンにおける新型コロナウィルス感染数の著しい急増はワクチン接種の進行速度を上回っており、政府がジレンマを抱える可能性がある。状況を考えると、現在の封じ込め措置が不十分であるリスクがあり、オミクロン株を前にしてより強力な行動が求められる。完全な製造ロックダウンが実施されなくても、今後数週間は物流と労働が課題に直面することを考えれば、半導体生産が緩やかに減少する可能性は依然として存在する。
現時点において、このロックダウンリスクを半導体供給のベースケース予測には含めていない。ただし東南アジアの主要半導体供給国が抱える潜在的な問題として数ヵ月間監視しており、2021年10月下旬から毎月発表(1月更新版は1月24日の週に発表予定)の悲観的コンティンジェンシー計画予測の1要素としてフィリピンの供給ショックリスクを含めている。
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アナログチップ-自動車メーカーを待ち受ける次の大きな脅威?
Jeremie Bouchaud(ディレクター、自動運転・E/E&半導体)
Phil Amsrud(IHS シニアプリンシパルアナリスト)
アナログチップの生産能力は増強が予測されているが、増大する車載チップ需要を満たすには十分ではない。そのため、供給は2023年末頃に再び逼迫の可能性がある。
車載半導体の供給逼迫は2022年から2023年前半に緩和が見込まれるが、2023年末または2024年初頭に圧力ポイントが再び上昇するリスクがある。アナログチップ供給への新たな懸念だ。2021年に問題となったマイクロコントローラ(MCU)に続いて、アナログチップが今後3年間の自動車生産の大きな制約要因となりそうだ。
不足の影響が最も大きい2つの主要チップカテゴリは、MCUとアナログチップである。2021年初頭はMCUに注目が集まった。MCUには独自性があり、少なくともソフトウェアとピン配置が異なることから、1つの電子制御ユニット(ECU)に対して複数ソースからMCUを調達するのは事実上不可能である。MCUは通常、40ナノメートル(nm)より微細なプロセスノードで製造され、なかには現在28nmでのプロセスが始まったものもある。メモリとシステム・オン・チップ(SoC)が半導体市場でシェアを拡大するにつれて、これらの分野の成長をサポートするべく高度なノードに投資が集中し、成熟したプロセスノードにはあまり集まらなくなっている。
E/E(電気電子)アーキテクチャの集中化が現在のトレンドだが、その結果、車1台あたりのMCU数は少なくなる。ただし、新たなアーキテクチャやプロセスノードの微細化は、すべてのタイプのチップに好都合なわけではない。たとえば、アナログチップは多くの車両システムの重要部分であることから、その需要は新たなE/Eアーキテクチャとは関係なく今後も増大し続ける。車1台あたりに必要なアナログチップは数百におよぶ。各ECUおよびSoCの電力管理、センサーの信号調整、各ECUのバストランシーバー、各電気モーターのドライバー(高級車では最大100)、LEDランプ、ディスプレイ、レーダートランシーバー、ハイエンドオーディオシステム、RF(無線周波数)フロントエンド、これらのいずれもアナログチップを必要とする。
MCU供給が好転したことで、今度はアナログチップの供給が問題として浮上する。アナログチップは通常、90 nm〜300nmなどの成熟したチッププロセスを使用する。最先端のプロセスノードではなく成熟したプロセスノードでの生産が続いているのは、技術的理由と商業的理由による。間の悪いことに、アナログチップ需要は携帯電話用でも増大している。たとえば、RFフロントエンド、センサー処理、ハイエンドオーディオ、非接触型決済などである。車両セグメントと動力源の組み合わせの増加を考慮すると、2023年には車1台あたりのアナログチップの平均数が2021年と比べて26%増加すると予測される。この成長は主として現在進行中の電動化トレンドによるものと言える。
投資の大半がより高度なノードに向けられていることから、成熟したプロセスノードはフロントエンド能力不足となっている。当社の分析によると、2021年から2022年にかけて発表された設備投資全体の86%が車1台にわずか数個のチップしか必要ではない高度な技術に向けられており、車1台に使用されるチップ数の90%以上を占める成熟したプロセスへの投資はわずか12%となっている。E/ Eアーキテクチャの変更にかかわらず、アナログチップ需要の増大にともない、設備投資発表に見られるこの不均衡が今後、アナログチップやその他の旧型ノードにボトルネックをもたらす可能性がある。
ライトビークル生産の短期展望
予測されるアナログチップの供給不足はライトビークル生産に悪影響をおよぼす。ただし、楽観シナリオでは、他業界からのアナログチップ需要の減少によって自動車業界向けのファウンドリ能力割り当てが改善すると見込まれている。このシナリオでは、アナログチップ工場の生産量は2022年第1四半期から2022年第3四半期まで一定ペースで増加し続け、その後減速すると想定されている。このシナリオでは、四半期ごとに追加されるアナログチップ生産能力が2023年第4四半期までにピークに達する。
他業界からのアナログチップ需要が安定している場合、自動車業界向けの能力割り当てが一定に保たれる可能性もある。この想定が保守シナリオである。このシナリオでは、アナログチップ工場の生産量が2022年初頭から通常のペースで増加すると予測している。四半期ごとに追加されるアナログチップ生産能力は2023年第2四半期までに横ばいになる。中間シナリオでは、アナログチップの推定生産量は2022年に前年比18%増、2023年に同13%増となる。
自動車生産への影響を分析するため、この能力を2022年と2023年に製造可能な自動車の最大台数に変換する。これにより、2022年第3四半期以降、自動車生産は四半期あたり最大約2,400万台に制限され、2023年末から2024年初頭にかけて自動車生産台数は減少する可能性がある。これは主として、車1台あたりのチップ数が今後数年間で増加するとの予測による。2023年には、車1台あたりのアナログチップの平均数が2021年と比較して非常に多くなるだろう。生産能力は追加されるものの、電動化やインフォテインメントおよびADAS(先進運転支援システム)機能の増加といった現在進行形のトレンドがもたらす自動車用アナログチップの急増に対応するには不十分だ。
半導体チップの生産能力は増強されるが、自動車用アナログチップの需要増に対応するには十分ではない。2021年に問題となったMCUの後は、アナログチップが今後3年間の自動車生産の大きな制約要因となりそうだ。車1台あたりのアナログチップの数は、動力源タイプや販売セグメント、E/Eアーキテクチャにかかわらず、MCUよりもハイペースで増加する。アナログチップには、スマートフォンや家電など他の多くの業界からも高い需要がある。
現在の設備投資と生産能力の軌跡は、2022年と2023年初頭に自動車産業にとっての状況が改善する可能性があることを示唆している。供給は2023年末または2024年初頭に逼迫するかもしれない。これは、成熟したノードの能力増強、自動車業界向けアナログチップ工場生産能力割り当て、他業界からのアナログチップ需要など、いくつかのパラメータに左右される。自動車エコシステムのさまざまなプレーヤーによる取り組みを考慮すると、自動車生産の潜在的な上限を引き上げるためのアナログチップ生産能力増強に向けた投資が今後数年間で増える可能性もある。自動車メーカー各社は、ファウンドリとより直接的な関係を構築することで半導体サプライチェーンの見通しを改善すべく取り組んでいる。これにより、自動車産業向けの生産能力割り当てが改善され、2023年以降の自動車生産能力も改善の可能性がある。
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