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自動車業界における持続可能性の動き|資産保有者に向けた投資判断のポイントも解説

電動化の進展と2030年に向けた自動車部品メーカーの備え 無料ダウンロード

本記事の内容に加えて、EV化が進む中で自動車メーカーの売れ筋商品や主要工場の稼働についても解説しています。

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本記事では資産保有者と自動車業界を結びつける「持続可能性」の取り組みについて、S&Pグローバルモビリティが提供する多彩な予測データを基にご紹介します。

今回はハイブリッド車への移行の流れを詳しく解説した後、未来に向けた展望を探ります。さらに、現在の自動車業界が持つ持続可能性の課題と取り組みについても掘り下げてお伝えするので、ぜひ参考にしてください。

BEV市場におけるテスラの重要性

テスラは、BEV市場において依然として重要な地位を占めています。BEV市場は長期的に成長が見込まれており、テスラは世界各地でそのトレンドを牽引する立場にあります。特に米国市場では、販売台数で大きなシェアを維持すると予測されています。

テスラの運営構造には、いくつかの強みがあります。現在、同社は米国・中国・ドイツの3カ国で自動車を生産しており、2024年時点では5つのモデルのみにラインナップを絞り込み、BEVの生産と販売に特化しています。

2027年までにはモデル数を8つに増やす予定です。中でも、「テスラ モデルY」は2023年以降、世界市場でベストセラー車となっています。これらすべてのモデルは、わずか3つのプラットフォームを活用して生産されているのが特徴です。

テスラは、生産を限られた数のプラットフォームに集約することで規模の経済を実現し、価格競争力を高めると同時に、利益率の向上も達成しています。

中国への依存は懸念材料

現在、多くのOEMが直面している大きな課題の一つが、中国市場への依存です。上記は、2025年の生産予測データをもとに、中国以外の主要自動車メーカーがどの程度中国市場に依存しているかを示しています。

世界最大の自動車市場である中国では、特にBEV分野で激しい競争が繰り広げられています。しかし、仮に生産停止や経済の低迷が発生すれば、貿易に障壁が生じたり、国内メーカーとのEV競争が激化したりする可能性があり、今後の不確実性が懸念されています。

これらのリスクは、テスラのようなグローバルなEVメーカーでも例外ではありません。中国市場の動向は、全世界の自動車産業に大きな影響を及ぼすと予想されます。

減少傾向にあるICE車両部品

BEVのサプライヤーが新たなビジネスチャンスを模索する一方、ICEに依存するサプライヤーではリスクが高まっています。

ハイブリッド車を含むICE車両には約2,000個の可動部品が使用されていますが、BEVではその数がわずか20個程度に減少します。この違いにより、ICE部品の需要は減少する一方、BEV部品の需要は今後も増加すると見込まれています。

しかし、BEV部品市場でのチャンスが具体的にいつ生まれるのかを正確に見極めるのは難しい状況です。市場参入が遅すぎればビジネスチャンスを逃す可能性があり、逆に早すぎる場合、需要が十分に拡大するまでの間にコストがかさむリスクがあります。

持続可能なモビリティの電気の未来を受け入れる

ここからは前述のデータを踏まえ、持続可能なモビリティの電気の未来をどのように受け入れていくべきなのか解説します。

道路輸送は世界のCO2排出量の17%を占めている

2023年、道路輸送によるCO2排出量は世界全体の排出量の17%を占め、その量は約62億トンに達したと報告されています。道路輸送は温室効果ガス排出の主要な要因であり、これを削減することがネットゼロ目標達成に向けた重要な課題です。

温室効果ガス(GHG)の排出は、国際的な基準であるGHGプロトコルに基づき、排出の方法や主体に応じて3つのスコープに分類されます。

スコープ1は、燃料の燃焼や製品の製造など企業や組織が自らの活動によって直接排出する温室効果ガスです。スコープ2は、他社から供給された電気、熱、蒸気などのエネルギーを利用する際に間接的に発生する排出量を指します。

スコープ3は、企業のサプライチェーン全体を対象とし、上流(原材料の調達や輸送)から下流(製品の使用や廃棄)に至るまでの間接的な排出をカバーします。

自動車メーカーにとって最大の排出源はスコープ3

上記は、スコープ3に含まれるいくつかのカテゴリーについてまとめたものです。

スコープ3の中でも「カテゴリー11(製品使用時に発生する排出量)」は、多くのOEMにとって最大の排出源となっています。これに次いで、「カテゴリー1(購入した製品やサービスに関連する排出量)」が大きな割合を占めている状況です。

テスラと他のOEMを比較すると、興味深い違いが見られます。テスラの場合、販売するのはBEVのみであるため、カテゴリー11における排出量は全体の7%と比較的低い割合です。

一方、カテゴリー1の排出量が全体の79%を占めており、サプライチェーンにおける排出が大部分を占めていることがわかります。

スコープ3カテゴリー11について

自動車産業におけるスコープ3の下流排出量の多くは、カテゴリー11(製品使用時の排出量)が占めています。このカテゴリーは、WTW(Well-to-Wheel)の排出量が基盤となっています。

WTWは、「ウェル・トゥ・タンク(WTT)」と「タンク・トゥ・ホイール(TTW)」から成る排出量の総称です。WTTは燃料の採掘や生成から供給まで、TTWは燃料を使用して車両を動かす過程で発生する排出量を指します。

WTWには、発電やバッテリー充電に関連する排出量も含まれます。なお、BEVにおいては、TTWの排出量はゼロです。

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大きな評価基準になりつつある温室効果ガス排出量

総収益や販売台数といった従来の主要指標に加え、温室効果ガス排出量の影響が、OEMの評価基準としてますます重要になっています。上記は、主要OEMの2023年における新車販売総収益、販売台数、1台あたりの平均WTW排出量です。

グラフの縦軸は収益、横軸は1台あたりの平均WTW排出量、バブルのサイズは販売台数を表しています。

例えば、大型車両の販売に注力している北米市場のフォードは排出量が大きく、グラフの右側に位置しています。一方、BYDやテスラのようにBEVを中心に展開するOEMは、排出量が少ないため左側に位置します。

高級車ブランドのBMWやメルセデス・ベンツは、他のOEMと比べて1台あたりの収益が非常に高いのが特徴です。車両価格と消費者の購入意欲のバランスが今後さらに重視される中、これらOEMにとっては高収益モデルを維持することが重要な課題となっています。

BEV使用段階における脱炭素化のカギを握る再生可能エネルギー

上記はS&PグローバルコモディティインサイトのデータとS&Pグローバルモビリティの予測をもとに、2030年における各地域のパワートレイン別生産台数の中で、BEVの生産が最も多いと予測される国を選出したものです。

さらに、テスラ モデルYをこれら7カ国で使用した場合の排出量の変化を計算しました。その結果、バッテリー容量や電力消費量が同じ車両であっても、排出量は使用する地域や発電源の違いにより大きく異なることがわかりました。

特にブラジルでは、発電の50%以上が2024年までに水力発電によって供給される見込みであり、WTTの排出量が大幅に抑えられる可能性があるでしょう。一方、他の国々ではBEVへの切り替えによってTTWの排出量をゼロにできたとしても、WTTの排出量削減には別の課題が残ることが示されています。

このように、排出量削減の課題はもはやOEMの責任範囲を超えており、BEVの普及が進むにつれて、脱炭素化への取り組みはさらに複雑化しています。今後は発電源の見直しを含めた、より包括的なアプローチが求められるでしょう。

2025年から2030年の間に169の工場でBEVの生産がスタート

上記は、2025年から2030年にかけて新たにBEVの生産を開始すると予測される工場の数を示したデータです。今後数年間で、多くの工場がBEV生産をスタートさせることが期待されています。

将来的には、従来の自動車製造とは大きく異なるBEV特有の要件に対応するため、専用の生産ラインや新しいサプライチェーンが必要になります。これには、効率性と柔軟性を両立した新しい仕組みの構築が求められるでしょう。

また、自動車業界全体でクリーンテクノロジーへの移行が進む中、環境責任がますます重要視されています。そのような流れのなか、持続可能な資金調達がサプライチェーンを支える重要な要素となっています。

こうした変化は、OEMの持続可能性への取り組みを際立たせるだけでなく、BEVへの投資を促進する新たな可能性を開くものでもあります。

上記のデータは、2025年から2030年にかけて新たに生産を開始すると予測される自動車工場の数を示したものです。

急速に成長を遂げているBEV産業に加え、OEMや資産保有者にとって新しい車両生産計画が進行中です。新しい生産施設の設立は、生産能力の拡大や市場競争力の強化につながる可能性があります。一方、施設への投資には、財務的な影響や持続可能な資金調達の必要性といった課題も伴います。

製品ラインアップの多様化が競争力を高める一方、長期的な実行可能性を見極めることが重要です。既存の施設を改良するか、新規施設を建設するかに関わらず、気候変動による物理的リスクへの対策も不可欠です。

移行を乗り越えて受け入れる

上記は、OEMをはじめ自動車業界のステークホルダーが考慮すべき重要な要因を示したものです。

既存のOEMにとっては、従来のビジネスモデルを変革しながら日常業務を管理することが大きな課題です。移行のタイミングが早すぎても遅すぎても、財務の安定性や市場での地位、販売地域の選択に大きな影響を与える可能性があります。

資産保有者にとって、EV化や持続可能な慣行への移行は、リスクと機会の両方をもたらします。こうした変化に適応し、排出削減に注力する企業に投資することで、ポートフォリオの価値を向上させるチャンスがあります。

一方、移行に苦労している企業への投資には注意が必要です。持続可能性と排出削減が市場でますます重視される中で、投資のタイミングが重要でしょう。

早すぎる参入は実行可能性がまだ証明されていない企業へのリスクを伴う一方、遅すぎる参入は進化する市場でのチャンスを逃す結果を招く可能性があります。移行期を最大限に活用し、リスクを最小限に抑えるためには、適切なタイミングとバランスが不可欠です。

まとめ:市場環境を見極めた慎重な投資が求められる

テスラは、BEV市場の中でも特に米国で高いシェアを持ち、効率的な生産体制でコスト削減や利益率向上を実現しています。しかし中国市場への依存は課題であり、経済情勢や競争の影響が懸念されています。

そしてBEVの普及に伴ってICEの部品需要が減少する一方、BEV部品の需要が拡大しています。市場参入のタイミングがビジネスの成否を分ける中、道路輸送がCO2排出量の17%を占めることから、モビリティの脱炭素化が急務です。

テスラは使用時の排出量を低く抑えていますが、サプライチェーン全体での排出削減が課題です。BEVの生産拡大には専用の生産設備や持続可能な資金調達が不可欠であり、気候変動リスクへの対応が競争力を左右します。

以上の点を踏まえて、市場環境を見極めた慎重な投資が求められるでしょう。

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